【2016年の振り返り】苦戦続く百貨店業界、不振の波は都心にも

2016年12月30日 19:09

画:【2016年の振り返り】苦戦続く百貨店業界、不振の波は都心にも

昨年は訪日中国人観光客による「爆買い」も目立ったが、その恩恵があったのは都心の店のみ。アベノミクスによる資産効果で一時膨らんだ富裕層の購買意欲も減退気味で、不採算の郊外・地方店を都心部の店がカバーできなくなっている。

 中国人を中心とした訪日外国人(インバウンド)の消費が失速し、苦戦を強いられた2016年の百貨店業界。最新のデータである11月の全国百貨店売上高は5257億円。既存店ベースでは前年同月比2.4%減で9カ月連続のマイナスとなっている。地方店閉店のニュースも相次ぎ、寂しい年となった。

 大丸と松坂屋を運営するJ・フロントリテイリング<3086>の11月の売上高は4.5%減。11か月連続で前年を下回った。内訳は百貨店事業が4.5%減、パルコ事業が1.7%減、卸売事業が2.0%減、クレジット事業が4.5%増だったことから、本丸の百貨店事業が足を引っ張っていたことがうかがえる。訪日客向けの免税品が10.5%減だったことや、心斎橋店本館の建替え工事で売場面積が減少した影響があるようだ。一方で11月の気温が昨年より低めだったことにより、コートやマフラー、手袋など冬物衣料は雑貨が好調に推移した。

 そごう・西武<3382>の11月売上も前年から4.7%減。やはりコート類の売り上げが伸びたもののニットなどの主要アイテムが奮わず、衣料品で5.0%減となった。西武池袋本店は3.1%減で、地方店の不振を裏付ける結果となってしまった。その象徴と言えるのが9月末の西武旭川店の営業終了だ。「日本最北のデパート」として有名だったが、15年3月にJR旭川駅直結のイオンモールが開業してから客足が遠のき、41年の歴史に幕を閉じた。

 三越伊勢丹<3099>も11月の売上は前年から2.2%減。宝飾品や時計、美術品など高額品の不調が響いた。ただし防寒アイテムなどが健闘してマイナス幅は3か月連続で縮小している。しかし気になるのは本来旗振り役であるべき首都圏店舗の不振。「日本一の売上を誇る百貨店」とされている伊勢丹新宿本店の16年度上半期の売上高は1081億円で、前年比5.1%減。母数が大きいため単純に他と比較はできないが、同じ新宿にある高島屋新宿店の売上が横ばいだったことを考えると「異変」が起きていることが分かる。

 その高島屋<8233>は大手4社で唯一、11月の売上で前年比プラス(1.3%)を出した。化粧品などの婦人雑貨が好調だったことが寄与した。高島屋大阪店でオープンした国内最大級の時計売り場が前年比38.3%増という結果を残し、同店が前年から3.7%の増収を果たしたことも大きかった。しかし期を通してみるとやはり見通しは明るくない。10月には17年2月期の連結純利益を40億円下方修正して前期比16%減の200億円と予想。円高進行による為替差損や持ち分法適用会社からの利益減を反映させ、最終減益になる見通しだ。

 百貨店業界の売上高は1991年の9兆7130億円をピークに減少が続いている。昨年には訪日外国人による「爆買い」が取りざたされたが、実はその恩恵があったのは東京や大阪などの都市圏に限られる。店舗ごとの数字を見ると、主要10都市は1.2%増だったのに対し、それ以外の地方は3.0%減。そして全体としても減少となっている。加えて今年は伊勢丹新宿店に代表されるような都心部の店舗にも陰りが見えてきているのが現状だ。今までは「地方の不振を都心の店舗がカバーする」という構図だったが、今年に入ってそれが難しくなっている。

 そのような中三越伊勢丹は11月、来年3月に三越千葉店(千葉市)と多摩センター店(東京都多摩市)を閉鎖することを発表した。東京と千葉という従来「地方」とは呼ばれてこなかった郊外店の閉店は少なからず驚きを持って伝えられた。さらに伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)と伊勢丹府中店(東京都府中市)なども売り場面積の縮小や業態転換を検討しているという。伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)も営業赤字が重くのしかかっており、同社の大西洋社長は「成長が望めない店舗は2・3年のうちに手を打たなくてはいけない」と閉店が続くこともあり得るとしている。

 そごうは旭川店と同時期に、柏店(千葉県柏市)も閉店させている。駅前のライバル店や郊外で相次ぎ開業した大型商業施設に顧客を奪われた。かつてはJR柏駅東口の商業拠点として栄えたが、周辺商業施設との競争が激化し売り上げが低迷。43年の歴史に幕を降ろした。さらに来年年2月末には西武筑波店(茨城県つくば市)など2店舗を閉店させる予定だ。阪急阪神百貨店<9042>も大阪市郊外にある堺北花田阪急の閉店を決めている。

 ここ数年で激しい淘汰の波が押し寄せている百貨店業界に、ハッキリ言って明るい話題は見いだせなかった2016年。可能性があるとすれば顧客のニーズを正しく読んだ上での大がかりな再編や統合で経営の効率化を図り、今までに無かった新たな価値を見いだすことかもしれない。(編集担当:久保田雄城)