2016年は不外食業界の中でも特にファーストフードが好調であった。消費者の節約志向や人気商品のリリースなどが要因だ。「日本フードサービス協会」によると11月は外食業界全体として前年比1.7%増の売上となった。特にファーストフードでは4%増加し、12ヶ月連続で業績が伸びている。今回は特にハンバーガー、牛丼、回転寿司というファーストフードの中心となる3つの業界について振り返ってみたい。
まずハンバーガー業界では日本マクドナルド<2702>が16年12月期の業績予想を上方修正。赤字から黒字へ転換が見込まれる。経常利益は34億円で、赤字であった前年同期比から257億円も改善された。この要因として徹底した市場調査と、それに基づく品質改善があげられる。サラ・カザノバ社長は15年に47都道府県全てを回り、顧客からヒアリングを行なった。特に店に来なくなった客からは熱心に理由を尋ねたという。そこで見えてきたのは「品質」。生産から店舗まで全てのプロセスをチェックし、第三者機関も設置。スタッフの教育も徹底し、品質向上に努めた。
また、「グランドビックマック」「クラブハウスバーガー」「満月チーズ月見」などマクドナルドのオリジナリティある商品をお手頃な価格で販売。品質向上によってより美味しくなった、マクドナルドらしいハンバーガーは多くのファンから支持を得た。品質向上と新商品がマクドナルドの業績向上に寄与したのだ。
一方モスバーガーも業績は好調。モスフードサービス<8153>の16年3月期決算において、モスバーガー事業の経常利益40億1100万円と、前年同期比163%増を記録した。「ネット注文」の会員数も25万人となり、売上に貢献している。
モスバーガーでも同様に15年に櫻田厚会長兼社長が47都道府県を全て周り、2000人もの消費者のニーズをヒアリングした。それ以前からもモスバーガーは地域住民と対話を重ねて消費者のニーズに寄り添う運営をおこなってきた。健康志向の上昇もあり、特に野菜に徹底的にこだわり、「農業生産法人サングレイス」も設立したほどだ。マクドナルドに素材のこだわりと高級感で対抗するという姿勢は今年も貫き通した。
次に牛丼業界を見てみよう。吉野家ホールディングス<9861>の月次報告によると、11月までの既存店累計売上高は前年比100.8%、客数は同じく前年比 100.9%といずれも昨年をわずかに上回るペースで推移している。
今期はここ数年みられた、基本価格そのものの変動はない。その代わり、サイドメニューの値上げが随時おこなわれている。吉野家の味噌汁は現在1杯60円。永年50円だったものが値上げされている。すき家も生野菜サラダが以前は100円であったが、現在130円。各種セットメニューも値上げされ、かつてデフレの象徴であったサラダお味噌汁のセット390円と言うのは遠い昔になってしまったが、そうした利益改善が利益向上に結びついている。
一方すき家を運営するゼンショーホールディングス<7550>における4月からの月次推移によれば、 既存店の11月までの累計で売上高前年比 101.6%、同じく客数は前年比 99.0%となっている。
すき家は昨年発生した人手不足並びに問題化した過重労働の対策が進む。当初は早期の24時間営業再開を目指したようではあるが、現在もなお営業時間に制限がある店舗が実際は多い。そのような中でのこの業績は、客数はマイナスではあるが、時間単位で見ると客数としてはむしろプラスになっているとも言えるだろう。
最後に回転寿司業界を見てみよう。16年は大手4社がしのぎを削る市場において地殻変動が起きた。これまで店舗数でトップを維持してきた、あきんどスシロー<2781>がついに店舗数で首位から陥落したのである。
ただ注意しなければならないのは、あきんどスシローがけっして不調だからと言うわけではない。店舗数で見ると15年9月に409店舗だったものが、 16年9月には 442店舗と 1年で33店舗増えている。では、そのあきんどスシローを抜き去ったチェーンはどこか。それは巨大外食グループであるゼンショーの傘下、はま寿司である。近年急激に店舗数を増やし、453店舗となった。
はま寿司の特徴といえば、なんといってもその安さだろう。平日一皿税抜き90円という価格戦略が消費者に受けたのである。ただ、はま寿司と異なる点があきんどスシローにはある。それは客単価の高さだ。現に店舗数でははま寿司に抜かれたものの、売上高ではいまだにあきんどスシローが回転寿司業界のトップを保っている。確かに1皿90円がメインのはま寿司では、必然的に客単価が下ぶれせざるを得ない。このため回転寿司チェーン各社においては、期間限定で大トロなどの高単価食材を投入したり、サイドメニューを充実させたりして客単価の向上を図っている。ケーキやラーメンなどはその代表例だ。
あきんどスシローとはま寿司の間ではいまだに売上高に歴然の差がある所からして、スシローの方がより高い価格の商品が売れていると言うことになる。一方のはま寿司は薄利多売と言えるだろう。回転寿司チェーンにおいてはあきんどスシローとはま寿司の一騎打ち。今後更に競争が激化していくことが考えられる。
今年もしのぎを削りあったファーストフード。業界全体としては売上4%が上がっており上向き傾向だが、果たしてこのチャンスを誰が掴み取るのだろうか。(編集担当:久保田雄城)