東北大と筑波大が酸化ストレスが糖尿病を引き起こすメカニズムを解明

2017年02月28日 08:09

 糖尿病は患者数が多く、重篤な合併症をひきおこす重要な代謝性疾患だ。以前から、糖尿病では酸化ストレスが増加することが知られてきたが、それがどのような役割を演じているかについては解明されていなかった。特に、脳の視床下部は代謝調節の司令塔として重要な機能を果たしていることから、糖尿病との関連が注目されていたが、視床下部での酸化ストレス増加の検討はそれを解明するアプローチの難しさもあって、十分な知見が得られていなかった。

 今回、東北大学大学院医学系研究科の宇留野晃講師(医化学分野)、柳下陽子研究員(医化学分野)、山本雅之教授(医化学分野、兼東北メディカル・メガバンク機構 機構長)らは、筑波大学医学医療系の高橋智教授らと協力して、脳の酸化ストレスが糖尿病を発症することを見出し、そのメカニズムを解明するとともに、治療へのアプローチに繋がる知見を得た。

 研究では、2種類のCreリコンビナーゼ発現マウスを利用してセレノシステイン転移 RNA(Trsp)遺伝子の発現を低下させたマウスを比較することにより、マウスの視床下部領域における酸化ストレスの役割の解明に成功した。このマウスの代謝様式を解析したところ、肥満と糖尿病を発症していることを発見した。さらに、マウスのホルモンの詳細な解析を行うと、インスリン抵抗性と肥満抑制ホルモンであるレプチンへの抵抗性が生じていたという。つまり、酸化ストレスが増加したマウスの脳では、視床下部領域での神経細胞死が増加した結果、代謝調節に重要なプロオピオメラノコルチン(POMC)陽性神経が減少していた。

 ここまでの解析により、視床下部領域における酸化ストレスの増加が肥満や糖尿病を引き起こすことがわかった。そこで、逆に、酸化ストレスを抑制することで、肥満や糖尿病が抑制できるか否かを検討した。この仮説を検証するため、酸化ストレスから我々の体を守るための転写因子であるNrf2に着目し、酸化ストレスに曝露したマウスの視床下部領域でNrf2を活性化したところ、酸化ストレスは低下し、肥満や糖尿病の発症を予防することができた。

 これらの結果から、視床下部領域における酸化ストレスが増加すると、神経細胞の細胞死が増加し、代謝調節に重要なPOMC陽性神経が減少して、肥満や糖尿病を引き起すことがわかった。一方、転写因子Nrf2を活性化することで、視床下部領域の酸化ストレスを抑制し、肥満や糖尿病の発症が抑制できることも明らかになった。

 肥満や糖尿病には複数の原因が関与すると考えられているが、酸化ストレスがどのように糖尿病の発症や悪化に関わるか詳しくわかっていなかった。今回の研究成果は脳神経細胞の保護作用を介して、肥満や糖尿病の発症や増悪を防ぐことができることを示している。このことから、Nrf2 を標的とした脳の酸化ストレス抑制に基づく、新しい予防・治療方法の開発が可能になるものと期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)