日銀は9月の会議で緩和の現状維持を決定した。マクロ経済の需給ギャップは解消したものの物価上昇は目標からはほど遠い。このまま国債の買いオペを続けていたら市場からの信用を失い長期金利上昇懸念もある。しかしながら財政規律の厳格化を提唱する者が存在しないのが現状である。
日銀は9月21日の政策会合で量的緩和の「現状維持」を決定した。一部の委員は「現状維持でも不十分である」との理由から反対票を投じた。
「現状維持」の理由は日本の実体経済では緩やかながら(有効需要不足と言った意味での)デフレからの回復傾向を示しているにもかかわらず、物価上昇率、殊に目標値としている消費者物価指数は目標の2%に遠く及ばず、0%台を脱却できないままだからである。
既に日銀は国債発行額の7割、最大約270兆円を買いオペし、国債発行残高の4割弱、約400兆を保有している。もちろんこれは良い側面も持っている。日銀が国債を購入し、大量保有しているからこそ国債の信用が保たれ、市中貸せず、値崩れしないため金利、殊に長期金利の上昇は起こらないとの議論もある。そしてその議論は概ね的を射たものであろう。
しかし、政府の発行した国債を日銀が買いオペで直ちに銀行等市中から吸い上げることは実質、日銀引き受け国債であるという指摘も当然出てくる。つまり、日本は自由経済では許されない財政ファイナンスを行っているという指摘である。
周知の通り、戦前戦中の戦時経済への猛省もあり、日銀引き受け国債は財政法51条で禁止されている。もちろん現在のシステムでは国債を引き受けるのは銀行等の市中であり、買いオペは金融政策として日銀独自に行われているというのが立て前なのであるから少なくとも外形上は日銀引き受けでないのは確かである。しかし、日銀が市中を迂回しながらも政府が発行した国債を即座に買い上げ保有することで政府が資金調達することは財政運営の放漫化につながる危険性をとてつもなく大きくする。安易に国債を振り出し財政規模の無制限の膨張にもつながりかねない。
民主主義とは単年度主義の均衡財政統制が基本である。PB(単年度の収支バランス)を保つことは財政民主主義の基礎である。しかし、消費税増税の見送りも既に実施され、今もなお増税断行に反対する声は決して少なくない。PB達成の目標も先が見えない。
そもそも、量的緩和による適度なインフレの誘発は負の資産としての財政赤字を圧縮することでもある。これ自体、財政の中立性を担保しているとは言えない。しかし、そのインフレの目標が今のところ実現の兆しも見られない状態である。
しかし、このまま緩和を拡大し貨幣供給量の増大自体が悪性インフレを生じさせたら日銀は口座を縮小させる以外にない。そして、それ自体が長期金利の上昇をさらに拡大するという最悪の事態になる。民間である日銀は政府に対し財政規律の遵守の観点からも意見を積極的に述べるべきではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)