アベノミクスの効果で、天気予報で言えばすでに「晴れ」の業種でも、たとえば労務費や資材費の高騰で工事採算が悪化している建設業のように、「利益なき繁忙」に陥っている場合もある。長引いた不況の間に財務が悪化した企業とそうでない企業など、同じ業種の中でも企業間の体力差が業績の差になって出てくることも考えられる。その兆しはすでに4-12月期決算にも現れているようだ。
東京海上HD<8766>は、第3四半期の経常収益は0.5%減の2兆6938億円、経常利益は21.4%増の1334億円、最終損益は873億円の黒字(前年同期は197億円の赤字)。正味収入保険料は7.7%増加し、タイの洪水被害への保険金支払いで利益が圧迫された前年同期の反動もあり大幅経常増益になった。好調な海外事業は円安が進めばさらに利益を押し上げる。通期業績見通しは、経常利益は250億円、純利益は200億円、それぞれ上方修正する。55円の年間配当見通しは据え置き。
第一生命<8750>は、第3四半期の経常収益は0.4%減の3兆5837億円、経常利益は39.0%減の1126億円、純利益は94.1%増の246億円。11月以降、円安や株高が進んで資産運用環境が好転し純利益を大きく押し上げた。減収増益の通期業績見通し、年間配当見通しは据え置き。
アイフル<8515>は、営業収益は12.6%減の758億円、営業利益は46.6%増の231億円、純利益は73.7%増の294億円。貸金業法の総量規制や出資法の上限金利の引き下げで営業貸付金残高の減少が続き、金融機関向けの信用保証事業が伸びてもカバーできなかったが、貸倒引当金繰入額の減少などが利益を押し上げた。通期の業績見通しは未定。無配の年間配当見通しは据え置き。
大林組<1802>は、売上高は17.1%増の1兆95億円、営業利益は82.2%増の212億円、純利益は約2.6倍の150億円。震災復興需要に加えビルの新築、高速道路のトンネル工事が順調で、タイなどでの海外事業、不動産事業も伸びた。さらに為替差益の計上で利益が積み上がっている。増収増益の通期業績見通し、8円の年間配当見通しは据え置き。
熊谷組<1861>は、完成工事高は0.7%減の1785億円、営業利益は12億円の赤字(前年同期は4億円の黒字)、純利益は17億円の赤字(前年同期は8億円の赤字)。国内のマンション工事で設計変更に伴う追加工事の価格交渉が難航し、代金が想定通り回収できなくなり工事採算が悪化した。通期業績見通しは2月6日に変更され、完成工事高は14億円、営業利益は43億円、純利益は31億円それぞれ下方修正し、利益は黒字から赤字に変わった。無配の年間配当見通しは据え置き。
五洋建設<1893>は、売上高は8.9%増の2500億円、営業利益は52.6%減の30億円、純利益は約2倍の8億円。増収だが労務費、資材費などの上昇で工事採算が悪化し、造船子会社も業績悪化。増収増益の通期業績見通し、2円の年間配当見通しは据え置き。
飛島建設<1805>は、売上高は4.9%減の738億円、営業利益は4億円(前年同期は2億円の赤字)、純利益は1億7500万円の赤字(前年同期は10億円の赤字)。受注競争が激化し、労務費・資材費の上昇で採算も厳しい中、採算性のいい大型土木工事に活路を見出そうとしている。増収増益の通期業績見通し、無配の年間配当見通しは据え置き。
長谷工<1808>は、売上高は13.3%増の4026億円、営業利益は13.3%増の162億円、純利益は53.6%増の99億円。マンション供給は近畿圏で大きく増加し、建築受注を目的とする不動産販売増が工事採算の悪化をカバーして大幅増収増益。増収増益の通期業績見通し、無配の年間配当見通しは据え置いた。
アベノミクスで「財政出動」「金融緩和」の矢が最初に放たれた建設や金融や不動産あたりは立ち上がりが早そうだが、1〜3月の第4四半期にどれだけ業績を改善できるだろうか。3月期本決算はおそらく業種や企業による差が大きい「まだら模様の景気回復」を反映した決算になりそうだが、それでも来期の通期決算見通しの数字には、経営者がどれだけ明るい希望を持っているかが盛り込まれる。今後にどんな希望を見出すことができるか、楽しみに待つこととしよう。(編集担当:寺尾淳)