穏やかで過ごしやすい日が続いていたこの秋。11月19日夕刻、衝撃的なニュースが走った。羽田空港に到着したばかりのビジネスジェットのなかで「日産自動車ゴーン会長逮捕」されたとの報だ。以降、さまざま憶測が飛び交うなか、今後の日産と仏ルノー・三菱自3社のアライアンスは、混沌とした状況に置かれたままだ。
ここでは金融商品取引法違反で東京地検特捜部の逮捕容疑、刑事事件とは別に、ルノーと日産・三菱自連合の経済的合理性と今後の可能性を探る。
1999年、経営再建支援を求めた日産に、仏ルノー社は副社長だったカルロス・ゴーン氏を送り込んだ。彼はすぐさま「日産リバイバルプラン」を策定し、日産の再建に乗り出す。
コストカッターと異名をとったゴーン氏は、企業経営者として日産を立て直す。数十社におよぶ子会社を解体、武蔵村山や荻窪などの開発拠点や同社工場売却。数万人に上る人員整理を淡々と行った。こうした意味で彼は、企業経営を修復する優秀な外科医だった。そして、ルノーとの提携関係は、互いに独立した企業として独自の運営が尊重されてきた。ところが、ゴーン氏は2005年に日産の会長であると同時にルノー本社のCEOにも就いた。
そして、フランソワ・オランド政権下に経済産業大臣となったエマニュエル・マクロン氏が、ルノーの最大株主であるフランス政府として、ルノーの経営に口を出すようになる。日産からの配当で利益の半分を生み出しているルノーは、日産株の43%を持つ。大統領になったマクロン氏にとってルノーの影響力を最大限に行使して日産を傘下に収めたいとの思惑を持つのは当然だった。
昨年度で、ルノーCEOを降りるはずだったゴーン氏の任期を2022年まで延長した裏には、仏大統領マクロン氏とゴーン氏のあいだに「日産を傘下に……」という暗黙の了解があったとされる。
これが、今回の「ゴーン氏逮捕問題に至る遠因」だ。日産とルノーはそのアライアンス解消に向かうのか、あるいは提携維持となるのか、予断は許さない。
が、しかし、アライアンスの解消は日産、ルノー両社にとって大きなリスクがある。ルノーのデメリットは前述した、純利益の半分近くを日産からの配当から得ているため、日産との縁が切れれば、収益が落ち込み、株価にも大きな影響を与える。
日本サイド、なかでも日産本社には、ルノーとの提携を解消しても日産だけで十分にやっていける、という声も多いが、日産にも大きな問題が持ち上がる。提携を解消すれば、確かにルノーの支配から脱却できる。が、そうした場合、ルノーは日産株を売却するだろう。ルノーが保有する日産株は発行済み株式約42億2071万株の約43%。ルノー持株の時価総額は、現在の日産の株価からすると1兆6000億円ほどだ。ルノーが放出する株を日産が買い取るのは、現在の日産資金の状況から不可能に思える。考えられる株式購入可能社は、巨額の資金を投資できる資金を移動して稼ぐファンド系などが思い浮かぶ。が、ルノーよりも遥かに厄介な株主となるリスクがある。
また、提携解消は自動車会社としての3社アライアンスに、同じリスクを抱え込ませることになる。つまり、今後要求される自動運転自動車やコネクテッドカーなど次世代技術を搭載した開発競争の研究開発資金が不足して、ライバルに大きな遅れを取ることにもつながる。こう考えると、簡単に提携解消には踏み切れないだろう。しかし、ゴーン氏という強烈な牽引力が無いいま、誰がアライアンスをリードするのか。日産、ルノー、三菱の3社アライアンスは、ここまで互いのリソース活用、共同開発や共同購買・物流などによってシナジー効果を生み出してきた。3社連合の基本的な戦略は間違っていなかった。
このような点で、3社アライアンスには経済的合理性があったし、今後もある。しかし、仏マクロン大統領の意向を背景に、ルノー側は経営統合によって日産を完全傘下に収めたいのは事実だ。「ゴーン逮捕」による問題は、裁判所法定で日産サイドの情報が開示されるまで、膠着した状態が続く。
日産の西川広人社長は12月17日の取締役会後の記者会見で、「重大な不正はここで絶対に止めなければいけなかったし、その決断は間違っていなかった」と強調。しかしながら、何の進展も示されることはなく、今後ルノーやフランス政府との関係がどうなるか、そして不正を見逃し続けた社内のガバナンス体制を強化できるのか。直面する課題は多く、今後の展開は不透明だ。
なお、12月20日に東京特捜部が要求した拘留期限延長を裁判所が却下した。これを受けて21日にも保釈されると大きく報道された。が、事件は劇的な展開を見せる。東京地検特捜部は特別背任容疑で3度目の逮捕に踏み切った。ゴーン氏の拘留は続き、年を越すことになりそうだ。
EV開発で業界を一応リードしているとされる日産・ルノー・三菱自陣営だが、今回の揉め事の影響で起こる経営方針膠着は、明らかに技術開発に悪影響を及ぼす。次世代自動車開発で凌ぎを削るライバルたちは一挙にテイクオーバーを仕掛けてくる。(編集担当:吉田恒)