自動車の電動化が世界規模で加速している。イギリスやフランスではすでに、2040年以降のガソリン車の新規販売を禁止とする方針を打ち出しており、日本でも経済産業省が2018年4月に経済産業大臣主催の「自動車新時代戦略会議」を設置、同8月に取りまとめた中間整理では、2050年までに世界で供給する日本車のxEV(電気自動車、プラグイン・ハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車)化を進める方針を掲げている。
自動車ファンの間では純粋なガソリン車が少なくなることを悲しむ声もあるが、すでに国内での新車販売台数の約 30%が xEVとなっており、日本は世界でも電動化の進んでいる国の 1 つといわれていることからも、この流れは止められないだろう。ましてや 日本はxEVの制度環境やインフラ整備にも早くから取り組んでおり、電池をはじめとする電動化に関する技術レベルにおいても世界をリードしている。燃料面だけでなく、自動運転技術やコネクテッドカーなどの登場によっても電動化技術の需要は高まっており、車載向け電子部品業界の発展と共に、自動車大国日本の復活にも期待がかかる。
しかし、普及と期待が膨らむ反面、まだまだ解決すべき課題も山積している。
その一つが「航続距離」だ。xEVは税金面での優遇や燃費(電費)の節約など、ユーザーにも多くのメリットがあり、しかも静かで環境にも優しいが、車はあくまで生活を便利にするための「道具」だ。一回の充電で走れる距離が短ければ、間接的な負担は大きくなってしまう。
現在、日本車で最も走行距離が長いとされるのは、日産自動車のリーフだ。2017年のフルモデルチェンジでバッテリー容量40kWhモデルが登場し、一回の充電で走行できる距離が400㎞にまで延びた。2010年の発売当初のリーフが一回の充電でたった161kmしか走ることができなかったことと比べると飛躍的な進化といえるが、それでも充電にかかる手間を考えると、まだまだ物足りないと言わざるを得ない。2017年8月に発売されたテスラの最高グレードP100Dが航続1000kmを達成して話題になったが、それくらいになってようやく、充電ストレスがなくなるのではないだろうか。
航続距離を延ばすためには、搭載バッテリーの容量を増加する必要がある。しかし、容量が大きくなればなるほど、充電時間の問題が出てくる。そこでバッテリー容量が増えても急速充電を可能にする、より高出力かつ高効率な車載充電器が求められていることから、充電器の構成部品にSiCパワーデバイスを採用するケースが増えている。
現在の主流であるSi (シリコン) 製のパワー半導体部品と比べて、SiC (シリコンカーバイド) 製はスイッチング損失が小さく、高温領域においても優れた電気的特性を有している。また、欧州を中心にxEV搭載バッテリーの高電圧化も進んでいることから、今まで以上に高耐圧かつ低損失のパワーデバイスが必要とされる機会が多くなると予測されており、SiCパワーデバイスの出番はますます増えそうだ。
そんな中、日本国内では、電子部品大手のロームが車載信頼性規格AEC-Q101に準拠したSiC製品のラインアップを強化しており、SiC SBDとSiC MOSFET合わせて34機種の量産化に成功し、業界トップの品揃えを誇っている。また電圧面でも650V、1200V耐圧のSiC MOSFETをラインナップしており、高電圧バッテリーへの対応も万全だ。
もちろん、ロームだけでなく国内外の電子企業がしのぎを削って、 xEVに最適な車載用電子部品の開発にいそしんでいる。このまま技術が加速すれば、日本車のxEV化は2050年を待たずに達成できるかもしれない。(編集担当:松田渡)