シンポジウムのトークセッシション。登壇者は左から座長役の松村秀一・東京大学大学院特任教授、山崎陽菜・駒沢女子大学助教、岩佐明彦・法政大学教授、水流潤太郎・長岡造形大学理事長。MCは伊藤圭子・アキュラホーム住生活研究所所長
主催者も長い名前だと苦笑する「住まい手が参加する住まいと住環境づくりの意味と実践」研究会が、東京都内で、その研究会の名称どおりのシンポジウムおよびパネルディスカッション&トークセッションを開催した。
同研究会は、松村秀一・東京大学大学院特任教授、水流潤太郎・長岡造形大学理事長、岩佐明彦・法政大学教授、山崎陽菜・駒沢女子大学助教らが参加し、アキュラボーム住生活研究所に事務局を置く研究会だ。
今回のシンポジウムは、同研究会が昨年立ち上がり、ほぼ1年経過したことでの経過報告の意味合いをも持ったものとなっていた。研究会ではこの1年、住まい手がさまざまな形で住まいづくりに参加することを契機に、多様化する住宅ニーズや住まい手の価値観を調査してきた。
同研究会の大きな目的は、近年日本の住宅ストックが総世帯数を上回る現状、具体的には2013年現在、5250萬世帯に対し住宅は6060万戸であることを前提に、人々が住宅を所有するということを目的にするよりも、住まい手の暮らし方や生き方をいかに理想どおりに実現するのか、その手段が住宅だと捉えるように変化して住居に対する考え方の変化。いわゆる「所有から利用、所有する物件のシェア」が住宅を取り巻くこの時代の日本における大きな変化だ(松村氏)とした。
その上で、日本では理想とする住宅建設にかかるコストは大きく、住まい手が多彩な暮らし方を体験するのは極めて難しいのが現状。これまでのような既成住居にやむなく住んでいるのが現実だ。また、一方で、中古住宅のリノベーションやDIY(Do it Yourself)で住人が住居に手を加えながら、その作業体験そのものを愉しんでいる人たちも現れてきたと、水流氏は言う。同氏は新潟・長岡で築40年の廃屋同然だったRC4階建てアパートを所有者ほか学生やアーティストなど住民が集まって自ら改修・リノベーションして住んでいる実績を紹介した。
これらのことは、自分自身の住居に対する拘りを実現する大切な手段だが、もっとライトにカジュアルに住宅に自ら手を加えることは、住む人の満足感のアップにも繋がるとした。
岩佐氏の報告はユニークだった。中越地震の際に建てられた仮設住宅の調査のなかで、住まい手が仮設住宅を改善・改修して住みこなす例を、掲示板で紹介する「仮設のトリセツ」でカスタマイズコンテストなどを実施。この「仮設のトリセツ」が人と人の繋がりを生んだと説明した。このような小さな活動が、入居者の満足感を向上させ、さらにコミュニティの醸成にまで進んだ好例だと説明した。
こうした自然に生まれるコミュニティは、これからの住まいづくりのヒントになると、水流氏は述べ、住宅業界が気にすべきキーワードを紹介した。それは大まかな表現で「住居に余白を残す」ことであり、土間、縁側、広めのデッキ、道庭、コモンズのようなシェアできるスペースなどだとした。
このコミュニティの生成には、「一緒にやってくれる人が非常に大切だ」としたのは、山崎氏。曰く「プロがコンサルティングしたからといって、全国どこでもコミュニティの醸成を実践できるというものではない。集まった人が意欲的に活動するベースのようなモノを探さなければ」とも。
昨年発足した同研究会は3年間を目途に何らかの答を得たいとしている。「買わない時代のサブスクリプション」が叫ばれるなか、家を作るだけではなく、暮らしを提案する企業・団体が脚光を浴びるのは確かだろう。
「2年後、このメンバーが2019年に『何てつまらない議論をしてたんだ』と笑っていられるような画期的な結論が出ているかも知れない」と松村氏が笑いながら結んだ。(編集担当:吉田恒)