地方創生の一翼を担う土壌センサによるスマートアグリ

2019年04月07日 12:26

ローム土壌センサユニット

ピスセミコンダクタが開発した「土壌センサユニット」。 直接土の中に埋め込むことで土壌環境指標をリアルタイムで測定し、作業の効率化や生産性に貢献する

 「地方創生」という言葉が使われるようになって久しい。いわゆる首都圏や都市部に集中している人口分布により、地方の人口や経済、産業が低下の一途を辿っていることは周知の事実だ。そのパワーバランスの偏りを是正することこそ、地方創生の原点とも言える。

 首都圏や都市部に人口が集中する理由は、仕事の数や賃金が影響している。企業の本社なども首都圏に集まりやすく、その分雇用も生まれるのである。しかし、その流れにも少しずつ変化が生じている。

 総務省の調べによれば、若い世代の都市住民が、農山漁村を訪問する回数が多いという結果が出ている。理由としては「農作業や祭りなどの地域活動への参加」や、「地域貢献活動やボランティア活動に参加するため」などである。年代別にみると、特に20歳代が最も高く、過疎化や高齢化の進む農山漁村の役に立ちたいという意識が高いのだ。

 「田園回帰」とも称される若者の動きに対し、地方自治体も敏感に反応している。地方への訪問から移住、定住を目指し、希望者への面談やセミナーの開催など、一過性の交流に止まらないような必死の努力が垣間見られる。

 若者が農村に移住する際、重要項目の一つとされるのが、「仕事」である。農村なのだから農業を、と考える方も多いだろうが、なかなか一筋縄ではいかない。何をどうやったら良いのかなど、農業に携わったことのない人間にとっては、正に未知なる世界である。高齢化に伴い、経験豊富な営農指導員も減少。また、昨今の目まぐるしい気候変動にも対応しなければならず、第1次産業のビジネスは安定性に欠けるイメージが拭えない。

 数多くの不安要素が挙げられる農業だが、「あるもの」の登場で農業のイメージがガラリと変わりつつある。その「あるもの」とは、土壌センサによるスマートアグリだ。

 例えば、ロームグループのラピスセミコンダクタが開発した土壌センサによるフィールドスキャンシステムは、土壌センサユニットを直接土の中に埋め込むことで、土壌環境指標で重要とされるEC(電気伝導度)、pH(酸性度)、地中温度、含水率を、中継器を介して同時にリアルタイムで把握することが出来る。

 測定データは、Webサービスを通してスマートフォンやパソコンのブラウザで確認する。日々15分間隔で測定されているデータが表示されるため、ユーザは現場にいなくても現在の土壌状態をリアルタイムに見ることができるという。また、設置開始時からの推移データも表示できるため、肥料投入や水やりのタイミング、天候と対比させた栽培管理へのフィードバックが可能になる。これにより農業従事者の勘や経験を補完することで、初心者でも安心して始められる上に、データを分析することで、より良質・低コストで安定した農作物の供給を実現することが可能になるのだ。本システムは九州、中部、関東、東北、北海道の各地域、また露地栽培やハウス栽培など、様々な環境において既に稼動しているという。

 「農業とIT」という、一見交わることのないような2つの言葉が、実際の農村で成功しているという事例も数多くある。このIT化の広がりは農業のみに止まらず、漁業や林業など、地方の第一次産業にも波及しつつある。土壌センサによるスマートアグリこそ、地方創生の鍵を握っていると言っても過言ではないだろう。(編集担当:今井慎太郎)