政府主導の働き方改革への企業の積極的な取り組みの成果もあり、労働時間は減少傾向で推移している。こうした推移の中でサービス残業を主因にする過労死などの労務災害も減少傾向にシフトしてもらいたい。しかし、厚労省のデータを見る限り労災に関する請求件数は減少傾向には転じていないどころか増加傾向を示している。
6月28日、厚生労働省が「平成30年度過労死等の労災補償状況」を公表している。報告書は労災補償状況を「脳・心臓疾患に関する事案」と「精神障害に関する事案」に分けて集計しているが、2018年度における「脳・心臓疾患に関する事案」の労災補償への請求件数は877件で前年度と比べ37件の増加となっている。14年度の763件からの本年度の877件と請求件数は増加傾向で推移している。
このうち死亡事案は254件でやはり増加傾向の推移だ。業務上か業務外かのいずれかに決定が下された決定件数は689件で前年に比べ25件の増加で増加傾向の推移だ。一方、業務上の事案と認められた支給決定件数は238件で前年度と比較すると15件減少しており、このうち死亡事案も82件と前年度と比べ10件の減少となっている。
業種別で見ると「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」が請求件数145件、支給決定件数83件で最多となっており物流関係で労災が増加傾向のようだ。年齢別では、請求件数、支給件数ともに「50~59歳」、「60歳以上」、「40~49歳」で多くなっている。
精神障害に関する事案では、18年度の請求件数が1820件で前年度比88件の増加で、このうち未遂を含む自殺件数は前年度と比べ21件減少し200件となっている。精神障害でも請求件数は14年の1456件から増加傾向を維持している。決定件数は1461件で昨年度と比べ84件の減少、このうち支給決定となったものは465件で前年度と比べ41件の減少で、未遂を含む自殺の件数は前年度比22件減少し76件となった。
請求件数を業種別に見ると、「医療,福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」が192件で最多となっており、年齢別では「40~49歳」、「30~39歳」、「20~29歳」と比較的若い世代が多くなっている。支給決定があったものの発病に関与した出来事は「仕事内容・仕事量の変化」と「嫌がらせ、いじめ、又は暴行」が69件で最多となっている。
「脳・心臓疾患」、「精神障害」ともに人手不足が著しい業種での労災請求が多くなっており、仕事の量や配置転換、人間関係など人手不足に関連した労務管理上の問題も背景にありそうだ。(編集担当:久保田雄城)