検事長定年延長に解釈変更で自らの首絞めた総理

2020年03月01日 10:27

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安倍晋三総理は、検察官の定年延長は一般法である国家公務員法が適用されると「解釈変更した」と2月13日の衆院予算委員会で平然と答えた

 行政が検察人事に介入、司法の独立を壊す違法行為。許されてはならない。東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題は森友学園問題、加計学園(岡山理科大学への獣医学部新設をめぐる疑惑)問題が本筋未解明のまま今日に至っているなか、時の政府が検察に関与するという、より深刻な事態を招いている。

 特別法(検察庁法)が一般法(国家公務員法)に優越するのは法の原則だが、安倍晋三総理は、検察官の定年延長は一般法である国家公務員法が適用されると「解釈変更した」と2月13日の衆院予算委員会で平然と答えた。法の原則、解釈変更による法の安定性を無視した答弁に検事や元検事、弁護士、学者ら法の専門家からも疑問と懸念、怒りが広がった。

 国家公務員法に定年制が導入された際、人事院は「検察官に適用されない」と国会答弁で明らかにしている。時の総理であっても総理の違法行為にメスを入れ、逮捕、起訴し、裁判にかける権限を有する「検察官」には行政から完全に独立した身分保障が必要だ。行政になびく人事介入を許すことは「三権分立」を壊すことになる。

 検察官の定年は63歳、検事総長の定年は65歳と検察庁法は規定し、定年延長規定は設けていない。それは職務の特殊性から定年延長を想定せず、厳格に守るよう定めたと解するのが妥当だろう。しかし、法を守るべき立場の森まさこ法務大臣は安倍総理の国会答弁に整合性を持たせるため、答弁をコロコロ変えたうえ「ご都合主義の後付け答弁」を繰り返してきた。

 自民党内の良識派として浮き彫りになっている石破茂元幹事長は「東京高検検事長の定年延長にはやはり釈然としないものがある」と述べ「解釈変更を行政府が行うのは当然だ、集団的自衛権でもそうだったのではないか、との意見が一部にあるが、それは違う」と反論する。

 石破氏は「日本国憲法における『国民主権』『平和主義』『基本的人権の尊重』の三大原則が改正不可であるように、検察庁法における『検察官同一体の原則』は国家訴追主義とも関連するものであり、そもそも解釈変更の余地はないのではないか」と事の性質から解釈変更はできないものと指摘する。

 安倍総理にとって「目の上の何とか」かもしれないが、党派に関係なく、石破氏の指摘は正論だ。安倍総理の違法ともいえる行為をカバーするために答弁を二転三転させる森法相への怒りや不信任が野党から出るのは当然。しかし、自民党と公明党、維新の議員らは森法相への不信任決議案を否決した。その責任は非常に重い。

 「解釈変更」という重大行為に「口頭で決裁をとった。文書はない」という森法相の対応が通れば、解釈変更の合理的根拠、正当性の検証さえできない。まったくのご都合主義を通してしまうこととなり「法治国家ではなくなる」。

 都合の良いように法の安定性を無視し、解釈変更が通るという、今回のような手法が正当化されるなら、安倍政権の下では憲法9条に自衛隊が明記されたとたん「徴兵制は苦役にあたらない」と解釈変更されることは明白だ。

 安倍総理は「徴兵制は憲法18条の意に反する『苦役にあたる』ので認められない」と否定しているが、ある日、突然「解釈変更した」というに違いない。今回の解釈変更は改憲を自らが難しくする行為になるといわなければならない。「自衛隊を追記しても何も変わらない」とは、まさに真っ赤なウソになるだろう。法解釈を維持することによる「法の安定性」を重んじてこそ、総理の発言にも説得力が出るだろう。黒川氏の定年延長を決めた閣議決定を撤回するよう求めたい。(編集担当:森高龍二)