SUVに明確な定義は無い! 妙な翻訳(誤訳)で示される世界的なSUVブームとは?

2020年03月08日 12:17

Porsche SUV

大きくて豪華でスポーツ・ポルシェとしての速さを併せ持つ、高級SUVというカテゴリーを切り拓いた立役者「ポルシェ・カイエン」

 いま、クルマのカテゴリーで世界的な人気者となった「SUV」に明確な定義は無い。1980年代、レンジローバー、メルセデスGクラス、国産ならトヨタ・ランドクルーザー100系や三菱パジェロなどのように、ラダーフレームにボディや荷台を架装したトラックと同じ構造のベビーデューティ四輪駆動車は、まだSUVとは呼ばれなかった。

 SUVという“呼び名”は、1990年代に米誌「Consumer Reports」の評価カテゴリーになった。現在では同誌の10分類ある自動車のうち、コンパクトSUV、ラグジュアリー・コンパクトSUV、ミッドサイズSUVの3分類が占める。

 SUVという呼び方は日本国内でも1990年代になって専門誌で普及。SUV「Sport Utility Vehicle」を “多目的スポーツ車”とした不思議で妙な日本語訳は、2000年を過ぎたころ、権威あるとされる日本の新聞社が、いちいちカッコ付きで「SUV(多目的スポーツ車)」と記載して記事に掲載。NHKや民放キー局などがニュース用語として使い出して一般化した。

 基本的にSUVのS=Sportは、おもに“スポーツのための道具を積載できる”という意であり、U=Utilityは、道具と人員を“運ぶための能力”を指すわけで、“多目的”という意味は特段内包していない。つまり、「キャンプやスキーなどのスポーツを行なう場所に道具を満載して、問題なくたどり着ける走行機能のあるクルマ」が原義だった。

 まさに、レンジローバーは狩猟で猟犬を乗せて森林を走り回り、Gクラスは本来的に山岳地での作業車両として生まれ、ランクルは中東の砂漠やアフリカのサバンナで目的地まで人や物資を運んで、無事に帰ってくるためのクルマ(道具)として存在した。SUVはそんなクルマたちから派生したカテゴリーなのだ。

 ところが現在、冒頭で記したように、SUVにはセダンやクーペのような明確な定義は無い。ただ、構造的をみると、従来のトラックと同じ、頑丈なシャシーで車高が高く重いラダーフレーム構造ではなく、一般的な乗用車と同じボディとフレームが一体となった軽量なモノコック構造を持った背が高い“クロカンライク”なクルマと云えそうだ。

 日本のSUVの発端は、トヨタRAV4だろう。11994年に発売されたクロスオーバーモデルだ。次いで、1995年にホンダもCR-Vを発売し、モノコックボディの2台は5ナンバーボディの“軽快な四駆”として人気を博す。そして、1997年に3ナンバー車の豪華なトヨタ・ハリアーが登場して、人気カテゴリーとして確立する。これらのモデルは米国市場でもヒットする。

 いっぽう、海外では高級で豪華、そして速くて大きなSUVというマーケットが生まれる。先駆けはポルシェ・カイエンだ。ポルシェは発売当時、カイエンを「新しいカタチのスポーツカー」として発表、VWトゥアレグの兄弟車として生まれたクルマだった。搭載エンジンはポルシェ928以来となるV型8気筒、4.5リッターの排気量から340ps/420Nmを発揮し、400ps/620Nmのターボ仕様も用意。ポルシェ・ボクスター並みの運動性能とレンジローバーを超えるとされるオフロード走行性能を持っていた。

 このカイエンがポルシェブランドとして爆発的に売れる。ポルシェの分析では、「ポルシェのオーナーは、世界的にみても2台以上の複数車両所有者がほとんどで、高性能スポーツを複数所有しながら家族のための高級で豪華な大型セダンも車庫にある」のが普通だと説明。こうした顧客にとって「ちょっと毛色の違う4ドアのスポーツ車が支持された」と。

 2013年には、ポルシェはやや小さめのSUVとしてアウディQ5との兄弟車、マカンを発表。これが、またしても大ヒット作となり、2台の高価で高性能なSUVはポルシェ社の屋台骨を支えるクルマに成長した。

 ポルシェの成功に触発され、世界の高級車メーカーが追随する。メルセデスやBMWはもちろん、アルファロメオがステルヴィオ、VWグループでは大型のSUVとしてアウディQ7、ランボルギーニ・ウルス、ベントレー・ベンテイガをリリース。BMWグループのロールスロイス・カリナンなどが登場。近いうちに伊スポーツの雄・フェラーリのSUVも公開される。

 いっぽうで小さなSUVも世界でデビューしています。米国製クロカン四駆ブランドのJEEPは、FCAとして共同でコンパスを発売、フィアットは500Xをリリース。VWはポロをベースにT-Crossを、アウディはQ2をリリースしています。

 日本国内でもSUVカテゴリーは活況だ。先のトヨタRAV4やホンダCR-Vに加え、マツダCXシリーズ、日産エクストレイルなどはもちろん、軽自動車でもスズキ・ハスラーのようなコンパクトなモデルも登場、新型トヨタ・ヤリスのSUV登場も噂されています。まさに百花繚乱といった状況だ。

 このようななか、小さなヒット作が誕生した。ダイハツ・ロッキーとトヨタ・ライズだ。昨年11月にデビューして、いきなり乗用車販売のトップに踊り出たのだ。

 ロッキー&ライズのヒットは、コンパクトでベーシックな実用車を求めていたユーザーが飛びつき、カイエンなど高級SUVは富裕層の2台目&3台目のクルマ。RAV4やハリアーは“ミニバンに乗りたくない”というアクティブなライフスタイルを志向する中間層が選択する自家用車なのだ。(編集担当:吉田恒)