毎日新聞「ガソリン、他社ハイオク混合問題」報道は、どんな意味があったのだろう

2020年08月02日 09:36

High-Octane Gas

バブル崩壊以降、ガソリンスタンドの経営も厳しいなか、いまさら「ハイオクが他社ブランドと混合」と報道した毎日新聞の意図とは?

 6月下旬、毎日新聞の報道が一部で話題になり、業界ではひと悶着あったようだ。報道内容は、「石油元売り各社がオリジナルブランドとして販売し、業界団体も『各社が独自技術で開発した』と説明していたプレミアムガソリン(通称:ハイオク)が、スタンドに出荷する前に他社ブランド製ハイオクと混合されている」ことを問題視する記事だった。毎日新聞では独自の取材で判明したとしている。

 これはガソリン配送の中間基地で、物流コスト削減を目的に貯蔵タンクを他社と共同利用するようになったためで、表向きには公表していない。

 とは云うものの、「複数の関係者によると“混合出荷”は約20年前から各地で行なわれてきた慣例」とも報道。現在はENEOS、出光昭和シェル、コスモ石油のこの大手3社に、キグナス石油、太陽石油が加わったおおむね5社でガソリン販売が行なわれている。ハイオクに独自のブランドを付けて系列店に出荷している。

 ところが、バブル崩壊以後の景気後退やリーマンショック以降進んだガソリン消費の低迷、業界再編の影響で、銘柄の異なるガソリンが流通過程で貯蔵タンクの共有が行なわれ、Aという銘柄のハイオクガソリンであっても、その中身はB社のハイオクが混入していたというわけだ。このようなバーターによるガソリンの流通は1996年の石油輸入の完全自由化をきっかけに加速した慣例だと言う。これは業界ではごく一般的なことなのだとも。

 ところでガソリンは、自動車用のエネルギーとして100年以上使われてきた燃料だ。最近では,電気自動車(EV)や水素をエネルギーとする燃料電池自動車(FCV)の導入も見られるが、今後もまだまだガソリンが世界中で広く使われていくはず。

 これは,ガソリンの体積・重量あたりのエネルギー密度が高く、運搬性、貯蔵性に優れているからだ。クルマのエネルギー源として,優位性が高いのだ。

 現在の自動車用ガソリンは、原油精製から得られたさまざまな成分が混ざった炭化水素化合物だが、自動車のエンジンを正常に作動させ、かつ有害な排出ガスを発生させないための厳格なJIS品質規格がある。この規格に適合しない製品は販売できない。

 一般自動車ユーザーが街角のGSで給油できるのは、JISで「自動車ガソリン」として決められた燃料で、オクタン価の違いによって1号のハイオク(プレミアム)ガソリンと2号のレギュラーガソリンの2種類とされている。

 ガソリンの品質で重要な要素のひとつが、このオクタン価だ。オクタン価とは、ノッキングと呼ぶ異常燃焼を起こしにくい値を示す指標だ。エンジンは、ガソリンと空気の混合気が燃えることで動く。この際,正常燃焼よりも前に、未燃焼混合気が自己着火して異常燃焼が起きることがあり、これがノッキングと呼ばれる現象だ。そのため、現在のクルマは電子制御で回避する「ノックセンサー」が装備されている。ただ、ノッキングを回避することにより、トルクの低下や加速悪化など性能低下を招くため、オクタン価の高いガソリンが要る。ハイオクガソリンとは、このオクタン価が高いことを意味する。

 日本の規格ではレギュラーがオクタン価「89」以上、ハイオクが「96」以上と決められているが、実際にスタンドの店頭で販売しているガソリンは、レギュラーがオクタン価「91」程度、ハイオクが「98」以上「100」とも言われる。概ね規格以上の性能を持ったガソリンが流通しており、前述のようなバーター取引による混合に大きな問題は無いといえる。

 そもそも、一般的な自動車のユーザーは、それほどガソリンのブランドに拘りがあるモノなのか。クルマの性能維持のために「〇〇ブランドのハイオクだけを給油する」というドライバーもバブル期以前の旧世代には居るにはいたが、ガソリンスタンドが激減した現在、そんなことを言っていると、お気に入りのブランドのスタンドに着く前に“ガス欠”を起こしかねない。

 冒頭の毎日の論評では、「高級ガソリンのハイオクは各社のオリジナル製品と認識して購入する消費者も多く、情報開示のあり方が問われそうだ」と結論づけている。ハイオクを「高級ガソリン」と表現するのもどうかと思うが、ガソリンは、クルマの燃料タンクでブレンド・混和されているのが当たり前だ。毎日新聞はハイオクの現状をあぶり出して盛大にアピールしたつもりのようだが、狙いは一体何処に。(編集担当:吉田恒)