あなたの知らない電気の世界。次世代半導体「SiC」が、電気の常識を変えていく?

2021年09月05日 09:32

電気

世の中がどんどん便利で快適になっていくにつれて、電気の役割もますます大きくなっている

コンピュータや通信など、最先端のIT技術によって、世の中がどんどん便利で快適になっていく。それにつれて、電気の役割もますます大きくなっている。

 電子機器が増える一方で、環境意識 や節電意識の高まりなどによって、電力需要自体の伸びは鈍化傾向にある。もちろん、省エネ家電などの普及も大きいだろう。しかし、産業、生活のあらゆる側面で電装化が急激に加速しており、エネルギー消費に占める電気の割合はすでに40%を超えている。高度な情報化社会が進展していけば、この割合がさらに増していくことは間違いないだろう。

 そこで今、注目が高まっているのが、「SiC」(シリコンカーバイド)と呼ばれる半導体材料だ。

 そもそも半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間的な性質をもつ物質をさす言葉である。半導体をイメージする写真やイラストなどでよく紹介されるのはICチップと呼ばれるもので、一枚の基板の上にトランジスタや抵抗器等、複数の回路素子を高密度に組み込んだ集積回路であり、近年では、これらも総称して半導体と表現されることも多い。半導体を用いた製品は、産業機器や産業用ロボット、身近な所では、自動車やパソコンなどのCPUやフラッシュメモリ、スマートフォン、エアコンや炊飯器などの家電製品にいたるまで、電気で動くあらゆる物に組み込まれている。

 では「SiC」がなぜ、注目されているのだろうか。その秘密は、優れた電力変換効率にある。

 半導体材料といえばこれまでの主流は「Si」(シリコン)だったが、SiCはSiに比べて耐久力が高く(絶縁破壊電界強度がSiの10倍)、変換効率に優れ、主に大電力を制御するパワーデバイスに使用されることが増えているのだ。

 発電所でつくられた電気は、電線や電柱を通って、工場やビル、各家庭に運ばれていることは小学生でも知っている。しかし、発電所で生まれた電気が、そのまま家庭に分配されていると思っている人も多いのではないだろうか。実は、発電所でつくられたばかりの電気は50万ボルトから27万5千ボルトもの電圧がある。ところが、家庭で使用する電気の電圧は、日本では100ボルト。海外の高電圧な英国などでも、せいぜい240ボルトだ。当然、発電所からそのままの電圧で電気が家庭に届いたら大惨事となる。また、鉄道や大規模な工場では、およそ15万4千ボルトから6万6千ボルト、ビルや商業施設などでは6万6千ボルトといったように、電気を使用する場所や用途によって、電圧は大きく異なるのだ。そこで、発電所から各使用先への間には幾つかの変電所が設けられ、それを経由することで電圧を落とし、それぞれに適切な電圧の電力として配電されるのだ。ところが、変電所を経由するたび、電力は大きく失われる。これは「送電ロス」や「変換ロス」といわれるもので、送配電線や変圧器の抵抗によって、電気エネルギーの一部が熱や振動として失われてしまっているのだ。

 そこで、Siよりも電力変換効率に優れたSiCパワーデバイスを用いることで、変換ロスを減らし、大切な電気をできる限り、無駄なく供給しようという動きが高まっている。現状では未だ、使い慣れているSiが主流で、SiCは「次世代」と表現されることも多いが、それも徐々に変わってくるだろう。

 日本は世界でも有数のエネルギー消費大国であるにもかかわらずエネルギー自給率は10%未満で、海外先進国と比べても低い。エネルギーの効率化と有効活用は最重要課題の一つである。家庭や職場での省エネ・節電はもちろん、情報化社会発展のカギとなる最新の半導体の動向や、発電所から自宅に届く電気の流れなどにも、常に知識と関心は持っておきたいものだ。興味のある人は、SiCパワーデバイスの開発で世界にもシェアを拡大している半導体メーカーのロームが、同社サイトのブログ記事の中で分かりやすく解説してくれているので、ぜひ参考にしていただきたい。(編集担当:藤原伊織)