脱炭素社会実現に向けて動き出した日本企業。2030年、50%削減への挑戦

2021年09月26日 09:40

画・企業の景況見込み。回復の兆し。製造業で持ち直し。消費低水準で業種により温度差。

世界の国々からの失笑を買ってしまうのか、実現させて賞賛を得られるかは、これからの企業の努力と、国民の意識次第だ

 年々深刻化する環境問題。中でも、地球温暖化対策は、世界の国々が率先して取り組むべき課題だ。

 日本も今年4月、オンライン形式で開催された米国主催の気候サミット「Leaders Summit on Climate」に参加した菅義偉内閣総理大臣が、日本の2030年度における温室効果ガス削減目標を13年度比で46%削減とし、50%削減の高みに向けての挑戦を続けていくとの決意を表明している。これについて、専門家の評価は賛否両論で、中には米バイデン政権に忖度した実現可能性の低い目標だと非難する声もある。また、一般国民の多くは、削減目標が見直されたことにも関心が薄く、他人事のように感じている人も少なくないかもしれない。

 しかし、地球環境の保全は単に「自然を保護する」だけのものではないし、決して他人事でもない。気候変動は経済にも深刻な影響をもたらすからだ。気候の変化は原材料コストの増加にもつながるし、消費者の嗜好や需要の変化、異常気象や自然災害の増加など、あらゆる企業活動において、短期の財務諸表には現れないリスクを抱えている可能性が高まってしまう。

 そこで、この見えざるリスクを軽減するため、2015年に開催されたG20における財務大臣及び中央銀行総裁会合から要請を受けた国際的組織、金融安定理事会(FSB)が「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures, 以下TCFD )」を設立した。2017年6月には「気候関連のリスクと機会について情報開示を行う企業を支援すること」「低炭素社会へのスムーズな移行によって金融市場の安定化を図ること」を目的とした最終報告書(TCFD提言)を公表している。TCFDはまた、気候変動関連リスク及び機会に関して主に「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」について情報を開示することを推奨しており、これに賛同する企業も増えている。

 例えば、先日、脱炭素社会実現に向けて、2030年中期環境目標の改定を発表した電子部品メーカーのローム株式会社も、TCFD提言に賛同し、提言に沿った情報開示に取り組むことを表明している。同社はすでに、国際規格ISO14001にのっとった環境マネジメントシステムをグループ全体で構築・運用することで、環境保全に向けた継続的な改善を進めており、環境方針及び環境ビジョンに基づいて設定した年度目標や取り組み、各種ESGデータをWebサイトにて公表し、積極的な情報開示を行ってきた。今後はTCFDの提言に基づき、シナリオ分析を実施するとともに、さらに透明性の高い情報開示に注力していくという。

 また、総合化学品会社のデンカ株式会社も、2020年9月にTCFDへの賛同を表明し、TCFDが運営するコンソーシアムに加入し、積極的な活動に取り組んでいる。同社では、策定した中長期の排出量削減目標の達成に向け、自家水力発電所の増設や、高効率ガスタービン発電機の導入等の施策を進めているほか、車載用途のリチウムイオンバッテリー向け高純度導電助剤をはじめ、車載モジュールに使用される電子・先端素材や、自然災害から守る農地かんがいシステム、CO2排出ゼロの環境配慮型コンクリートなど、同社の基盤技術を活かした製品の供給に尽力している。

 他にも、飲料大手のキリンホールディングス株式会社や建設業大手の株式会社大林組など、名だたる大手企業が続々と賛同を表明しており、その数は世界でも最多となっている。企業が動けば、国民の関心も向上するだろう。

 4月の菅首相の声明は、確かに実現が困難な無謀な目標ともいえるものかもしれない。しかし、それを絵空事にして世界の国々からの失笑を買ってしまうのか、実現させて賞賛を得られるかは、これからの企業の努力と、国民の意識次第だ。(編集担当:藤原伊織)