ロシア軍のウクライナ侵攻が続いている。これに対して世界各国は既にSWIFTからの排除など強い経済制裁を発動しており、日本政府もSWIFT制裁への参加をはじめ独自の制裁を発動している。制裁によりロシア経済が大きなダメージを受けることは確実だが、制裁を発動した側の企業も少なからず直接の悪影響を受け、また資源価格、穀物価格高騰で全世界が間接的に影響を受けることは間違いない。アジアへの影響については地理的にも距離があり、ヨーロッパに比べ貿易のウエイトも格段に小さいためマイナス影響は相対的には小さいと予測される。
3月3日に日本総研(日本総合研究所)がレポート「ウクライナ情勢の悪化がアジア経済へ及ぼす影響」を公表しているが、この資料を見ると既に台湾、韓国、シンガポールも制裁を発動しているようだ。ロシア経済打撃の影響を誘発係数(ロシア最終需要に誘発されるGDP比)で見ると、東・東南アジアではタイが0.9で最も高く、韓国0.5、台湾と中国が0.4、日本やインドネシア、フィリピンは0.2と、アジア経済への需要面の影響は軽微のようだ。しかし、アジア各国の鉱物性燃料は輸入超過であり、EU程ではないがロシアにもある程度依存しており、「ロシアは、天然ガスを含む資源の世界有数の供給拠点。ロシアからの供給不安が高まると資源価格が幅広く上昇する公算大。その場合、エネルギーの海外依存度が高いアジア諸国で交易条件が悪化」するリスクは大きいとレポートは指摘する。
「ウクライナ情勢になぞらえて、一部で台湾海峡の情勢悪化を連想する向きも」あるが「好調な輸出を背景に」、「直ちに有事に発展する可能性は低い」、しかし「市場心理の悪化などが台湾景気を下押しする可能性も」あると総研レポートは見ている。
昨年発表された台湾政府財政部の統計によれば中国向け(香港含む)輸出は輸出全体の4割を超え(2020年は44%)、また2桁の増加傾向である。輸出品の3分の1は半導体であり、中国大手のスマートフォンメーカー向けが多くを占めている。中国側から見ても台湾は輸入元として韓国、日本に次いで1割弱のシェアを持っており、最大の輸入品目である半導体は台湾企業への依存度が極めて高くなっている。中国による統一圧力は強まっていると一部では囁かれているが、台湾の独立意向もなく経済相互依存はますます強化されており、ウクライナ情勢が台湾有事につながる可能性は極めて低い。(編集担当:久保田雄城)