物価高騰で業績なき賃上げ。実施企業8割。3%以上6割。人件費上昇で収益悪化も懸念

2023年01月05日 07:43

画・物価高騰で業績なき賃上げ。実施企業8割。3%以上6割。人件費上昇で収益悪化も懸念。

東京商工リサーチが「賃上げ実施状況に関するアンケート」。2022年度の賃上げ実施率は78%。約6割が賃上げ率「3%以上」

 2022年は値上げラッシュの年であった。この世界的なインフレ基調、その中での輸入価格インフレは23年も続くと考えられる。しかし、小売業では既に値上げに伴って売上高の伸び悩み、減少が見られるようになってきており、企業の価格転嫁も限界に近づきつつあるようだ。中小企業を中心に高騰するコストを価格に反映することが出来ず、利益を縮小させている企業は多い。東京商工リサーチのレポートによれば、利益幅を縮小させているにもかかわらず、物価高騰下で従業員の生活の保障や従業員の引止めなどを目的に賃上げを実施する企業が増えているようだ。業績回復が無い状況での賃上げで、資金力の乏しい中小企業では人件費がさらに収益を圧迫することも懸念される。

 12月16日、東京商工リサーチが22年度「賃上げ実施状況に関するアンケート」調査の結果レポートを公表している(調査期間:12月上旬、有効回答4767社)。これによれば、22年度に賃上げを「実施した」企業は77.5%で8割近くに達している。21年8月調査の70.4%から7.1ポイントと大幅に増加した。産業別には、製造業が83.9%と最も高く、次いで建設業79.8%、卸売業78.2%と続いている。最低は、金融・保険業の55.1%と産業間の格差が大きくなっている。

 賃上げを「実施した」と回答した企業に賃上げ率を聞いた結果では、賃上げ率「3%以上」が58.1%と約6割を占めている。「3%以上」を産業別に見ると、トップは金融・保険業の85.7%で、逆に運輸業では50.6%と少なく、やはり原材料・燃料高騰の打撃を受けている産業では賃上げも難しいようだ。また、小売業での「3%以上」の賃上げは、大企業では100%であるのに対し、中小企業では57.6%と規模間格差も鮮明となっている。ベースアップ率について見ると、最多レンジは「2~3%未満」の26.2%、次いで「1~2%未満」18.2%、「3~4%未満」13.8%と続き、中央値は、全企業で1.7%、大企業が0.5%、中小企業は2.0%と、中小企業でベースアップにより積極的な姿勢が見られる。

 レポートは、この積極的な賃上げを「業績回復よりも、従業員の引き留めや物価高への対策の側面が強い」と分析している。また、経済の再活性化で人手不足が深刻化しており、「人材確保のため、中小企業が身の丈に合わない賃上げを迫られている可能性もある」と指摘している。今後は中小企業を中心に人件費上昇が収益悪化に拍車をかけることも懸念される。(編集担当:久保田雄城)