副業ブームの一方で、副業で赤字が出たと偽り、虚偽の申告書類で不正な還付を受けようという不正行為が増加している。SNSで出会った不正の指南役に申告に必要な書類の作成を依頼する、あるいは申告者自身が不正な申告書類を作成する手口だ。今年の確定申告の受付が始まることもあり、国税当局では不正に対し厳しい対応をする姿勢である。
会社員の給与は、会社側が所得税を天引きした上で支給する源泉徴収である。そして会社が会社員の代わりに所得税を納付している。会社員が副業をしており、この副業が赤字であった場合は、一定の条件をクリアしていれば赤字(損失)を年間の給与(利益)と相殺し、税金が還付される。
しかし最近増加しているのが、この還付金の制度を悪用した不正申告だ。国税庁の調査では、2022年6月までの1年間で追徴課税の支払いを命じられた「不正還付」は、前事務年度比で約5%増の191件にのぼる。重加算税を含めた追徴税額は計約2億円となった。不正還付の申告件数は2018年に比べて約2.5倍に達する。
なぜ急増しているのか。副業ブームであること、若者ほどSNSを通じて不正還付の申告を指導する「指南役」とつながりやすいことなど、安易に不正行為を行ってしまえる背景があると言われている。
熊本国税局が調査した20代の男性会社員の事例がある。大手企業で働いていた会社員は、指南役に手数料の25万円を支払い、申告に必要な情報を伝えて作成してもらった虚偽の申告書で還付を受けていた。指南役とは無料通話アプリで知り合いやりとりをしていて、直接面識はないという。
重加算税を含めた約174万円もの追徴課税をされた男性会社員は、「知人もやっているので大丈夫だと思った。簡単にお金が手に入ることに魅力を感じた」と話している。
名古屋国税局が調査した事例では、実在する企業に属している傍ら小売事業で多額の赤字がある、という不正申告をした30代の男性がいた。調査の結果、男性は企業に属していない、つまり会社員ではなく、小売事業による赤字も虚偽というもので、追徴税額は重加算税を含め約2290万円にもなった。
国税庁の個人課税課長・山県哲也氏は「所得税の不正還付は国庫金の詐取とも言える許しがたい行為。申告書の厳格な審査を行い、積極的に税務調査する。詐欺などの犯罪行為があれば、刑事上の責任の追及も行う」と語る。安易な考えで行われる不正申告には、厳しい対応がなされると考えるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)