2024年の展望 不動産5社

2024年01月14日 09:12

EN-d_300

三井不動産はインバウンド、EC施設の好調が金利リスクを補う

■三井不動産はインバウンド、EC施設の好調が金利リスクを補う

 三井不動産の2024年3月期の通期業績見通しは、売上高1.4%増、営業利益9.7%増、経常利益3.9%減、最終利益9.1%増で、ホテル・リゾートなど施設営業の好調な営業状況、経常減益の要因の純金利負担の改善をふまえて、営業利益、最終利益の見通しを上方修正した。

 ホテル・リゾートの好調さは、新型コロナ対策の「5類移行」による訪日外国人のインバウンド需要の復活が大きく、それはアウトレット施設での人出の回復、商業施設部門の収益性向上ももたらしている。その流れは2024年も続くと考えられる。

 不動産、特に同社のようなデベロッパーは、大型プロジェクト開発に必要な借入金を、得られる収益から徐々に返済していく業態なので、金利動向がリスクとしてのしかかる。2024年、もし日銀のマイナス金利政策が解除されたら金利負担の増加によって業績が圧迫すると予想されるが、施設営業部門、商業施設部門の好調さは、それを補って余りあるだろう。

 商業施設については、新型コロナで定着したEC(ネット販売)向け物流施設増設の動きは、コロナ後も順調に伸びている。

■三菱地所はオフィスビルの低空室率が継続している

 三菱地所の2024年3月期の通期業績見通しは、営業収益6.6%増、営業利益11.0%減、経常利益14.6%減、最終利益0.4%増で、営業減益、経常減益の見込みで最終損益も減益になる可能性がある。業績修正は行っていない。

 減益の要因はその前期に計上した海外の大型キャピタルゲインの剥落で、投資マネジメント事業は、アメリカでの運用資産の時価評価減に伴って過去計上済のインセンティブフィー(ノンキャッシュ)が取り消しになっている。

 もっとも、コマーシャル不動産事業はオフィスビル賃貸利益の増加、ホテル、アウトレットモールなど商業施設の好調、国内キャピタルゲインの改善で増収増益を見込んでいる。三菱地所の重要な収益源である既存オフィスビルの空室率は、全国ベースで4%、東京・丸の内では3%を割り込んで低く推移しているので、2024年もこの部門は増収増益のペースが維持されるだろう。分譲マンションの引き渡し、物件売却も順調に進んでおり、不安要素は小さい。

■住友不動産は堅調な増収増益が継続しそう

 住友不動産の2024年3月期の通期業績見通しは、売上高3.2%増、営業利益5.7%増、経常利益5.6%増、最終利益8.1%増と、派手さはないが堅実な増収増益。業績修正は行っていない。経常利益は2500億円を見込み、3期連続の経常最高益更新の確度が高まっている。

 主要4部門とも営業増益で、東京のオフィスビル中心の不動産賃貸事業は空室率が低く推移し、高稼働維持。マンション分譲が中心の不動産販売事業は契約戸数も引き渡し戸数も増加した。完成工事事業は値上げが浸透して利益率が改善し、「ステップ」ブランドの仲介が中心で住友不動産販売が担う不動産流通事業も弱含みながら順調で、2024年も特に足を引っ張りそうな分野が見当たらない。中期経営計画の最終年度2026年3月期の目標、経常利益3000億円突破に向けて視界は良好だ。

 成長戦略は、不動産賃貸事業は既存ビルの収益力の維持・向上、不動産販売事業は利益を重視して販売ペースをコントロール、完成工事事業は資材価格変動によるコストのコントロールと受注拡大、不動産流通事業はグループ連携強化と顧客本位のサービスで中古住宅事業でのシェア拡大を、それぞれ目指す。

■野村不動産は芝浦プロジェクト第1期竣工近づく

 野村不動産ホールディングスの2024年3月期の通期業績見通しは、売上高14.5%増、営業利益3.4%増、事業利益3.6%増、経常利益0.1%減、最終利益0.7%増で、増収ながら利益は微増か横ばい。業績修正は行っていない。

 住宅部門の住宅分譲事業は粗利益率が向上。住宅部門と都市開発部門の収益不動産事業で物件売却収入が増加し。資産運用部門、仲介・CRE部門も増収増益だが、海外部門のベトナム事業、運営管理部門が増収減益で、全体の利益の足を引っ張っている。

 2023年3月期に始まり2031年3月期を目標年度とする中長期経営計画では、2025年3月期までの「フェーズ1」で2024年3月期見通しで1090億円の事業利益を1150億円に伸ばし、ROA(事業利益/期中平均総資産)4.8%水準、ROEは9%水準突破が目標。2024年はその達成がミッションとなる。同社では都市開発部門における収益不動産の売却粗利益の増加、住宅部門における賃貸住宅の売却粗利益の増加を軸に、業績の上積みを図っていくとしている。

 大型プロジェクトとしては2024年、JR東日本と共同でオフィス、商業施設、ホテル、住宅を建設する東京都港区の「芝浦プロジェクト」S棟の竣工が近づく。

■東急不動産はJR東日本と包括的業務提携を締結

 東急不動産ホールディングスの2024年3月期の通期業績見通しは、営業収益11.4%増、営業利益4.2%増、経常利益5.0%増、最終利益32.7%増の増収増益。営業利益、経常利益、最終利益の予想を上方修正している。セグメント別では管理運営部門、不動産流通部門の増益を見込んでいる。

 中期経営計画の目標数値は1年前倒しの2025年3月期の達成が視野に入ったとのこと。その原動力は同社の本拠地である再開発が真っ盛りの東京・渋谷で、オフィスビルの空室率がきわめて低位にあるので、テナントとの賃料交渉では強気に出られる。JR東日本との間で包括的業務提携を結んだことも、住宅事業や再生可能エネルギー事業でビジネスチャンスがひろがりそうだ。

 大型プロジェクトは、渋谷周辺では2023年開業の「代官山町プロジェクト」「渋谷駅桜丘口地区再開発計画」が収益化し、「東急プラザ原宿ハラカド」が2024年春に開業する。札幌では「札幌すすきの駅前複合再開発計画」が収益化しそうだ。

 その一方で東急スポーツオアシスのフィットネス事業は2024年3月31日付で業界大手ルネサンスへの全株式の譲渡が決まっており、「選択と集中」が進んでいる。(編集担当:寺尾淳)