電力会社決算から見えた収益構造 増収でも減益・営業赤字となる理由

2026年08月02日 19:53

画・電力価格高騰で「電力難民」企業1万件超。新電力「逆ザヤ」で1割超が「契約停止・撤退」。

送電インフラを支える鉄塔。2026年度第1四半期決算では、主要電力会社で増収にもかかわらず減益や営業赤字となる企業がみられ、燃料費調整制度のタイムラグや発電設備の稼働状況など、電力業界特有の収益構造が業績に影響した。(資料写真)

今回のニュースのポイント

2026年度第1四半期決算では、主要電力会社で増収にもかかわらず減益や営業赤字となる企業が相次ぎました。一方で、堅調な利益を確保した企業もあり、業績には大きな差が生じています。その背景には、燃料費調整制度のタイムラグ、燃料価格や調達価格の変動、原子力発電所をはじめとする発電設備の稼働状況、電源構成など、電力業界特有の収益構造があります。決算を横断して見ることで、数字だけでは分かりにくい電力会社の利益の仕組みが浮かび上がります。

本文
 「売上は伸びているのに、なぜ利益が減ったり赤字になったりするのか」――大手電力会社が発表した2026年度第1四半期(2026年4~6月)決算を眺めると、こうした疑問を抱く読者は多いかもしれません。一般に企業業績は「売上増=好調」と受け止められがちですが、電力会社では売上高と実際の利益が必ずしも連動しません。今回の決算を横断的に分析すると、電力業界特有の収益構造が見えてきます。

■増収でも減益・営業赤字となる理由

 今期の主要電力会社の決算では、東京電力ホールディングス、北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、中部電力など、売上高(営業収益)が前年同期を上回ったにもかかわらず、本業の損益を示す営業損益が大きく悪化したり、営業赤字に転落したりする企業が相次ぎました。

 一見すると矛盾しているように思えますが、電力業界において「売上高の増加」は必ずしも「収益性の高まり」を意味しません。例えば東北電力では、間接オークションに伴う自己約定など電力取引制度上の仕組みによって、売上高は46.7%増となりました。ただし、この取引では売上高と費用に同額が計上されるため、収支への影響はありません。電力会社の業績は、「電気をどれだけ売ったか」という表面上の金額以上に、「電気をどのようなコストで作ったり調達したりしたか」に大きく左右される仕組みになっています。

■利益を左右する燃料費調整制度のタイムラグ

 今回、多くの電力会社で減益や赤字の要因の一つとして挙げられたのが「燃料費調整制度のタイムラグ(期ずれ影響)」です。

 電力会社は、火力発電に使う液化天然ガス(LNG)や石炭、原油などの輸入価格の変動を電気料金に反映させる「燃料費調整制度」を導入しています。燃料を購入する時期と、燃料価格の変動が電気料金へ反映される時期には時間差があります。このため、燃料価格の動きによっては、一時的に差益または差損が発生し、四半期の利益を大きく動かすことがあります。

 北海道電力や北陸電力、沖縄電力などの決算では、この制度上のタイムラグが収支を押し下げる要因となりました。

■原発・火力・水力 電源構成と設備稼働の違い

 同じ電力業界でありながら、九州電力や四国電力のように増収増益を達成した企業もあります。各社の収益差をみる上で重要となるのが、「電源構成」と「設備の稼働状況」です。

 四国電力では、伊方発電所3号機が前年同期と同様に稼働し、出水率の上昇によって水力発電量も増加しました。九州電力では、発電・販売事業に加え、海外事業や持分法投資利益の増加も業績を押し上げました。

 一方、東北電力では女川原子力発電所2号機の稼働減、北陸電力では七尾大田火力発電所2号機の停止が収益を押し下げる要因となりました。自社発電設備の稼働状況や、代替調達の有無などが、各社の収益に影響しています。

■営業赤字でも増配 四半期損益と通期見通しの違い

 四半期決算の数字を見る上で、もう一つ押さえておきたいのが「一時的な損益」と「通期(年間)の見通し」の違いです。

 沖縄電力の第1四半期決算は、燃料費増加や制度上のタイムラグにより営業赤字が68億7,200万円(前年同期は10億5,800万円の赤字)に拡大しました。しかし同社は、第1四半期に営業赤字を計上した一方、通期では営業黒字を見込み、年間配当予想を前年実績の30円から20円引き上げ、50円としました。

 第1四半期の損益と、通期業績見通しや配当方針は分けて確認する必要があります。四半期決算の一時的な赤字・黒字だけを取り出して企業全体の状況を判断することはできません。

■売上高だけでは読めない電力会社決算

 多くの業種と同様、電力会社も売上高だけで収益力を判断することはできません。特に電力業界では、燃料費調整制度の期ずれ、発電設備の稼働状況、燃料や電力の調達価格が短期的な利益を大きく動かします。

 燃料価格の変動と電気料金への反映時期がずれる「タイムラグ」が利益を変動させるほか、原発・火力・水力といった電源構成の違いや主要な発電設備の稼働状況が発電コストに直接影響します。さらに、卸電力市場での調達価格や他社からの購入電力料の変動も本業の採算に直結します。

 それに加え、本業以外の要因が最終損益を左右するケースもあります。例えば中部電力では、持分法適用会社からの投資利益が本業の営業赤字を補う形で経常黒字を維持しました。また関西電力のように、きんでん株の売却益という特別利益を計上することで最終利益が大きく増加した事例もあります。

 このように、電力会社の決算を読み解く際は、表面的な「売上高」や「赤字・黒字」といった単一の数字にとらわれず、その損益がどのような制度や構造的要因から生じているのかまで分解して捉えることが重要です。

■電力会社決算を読む視点

 今回の主要電力会社の決算では、増収減益や営業赤字、最終利益の増加など、会社によって異なる結果が示されました。その背景には、燃料費調整制度のタイムラグ、燃料や電力の調達価格、発電設備の稼働状況、持分法投資利益や特別利益など、複数の要因があります。

 このため、電力会社の業績を確認する際は、売上高や最終損益だけでなく、営業損益が動いた理由、本業以外の利益がどの程度寄与したか、通期見通しがどう設定されているかを分けて見る必要があります。今回の第1四半期決算は、各社の電源構成と事業構造の違いが業績に表れた結果となりました。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)