【日経平均】31円高、TOPIXはマイナス

2013年03月05日 20:24

 NYダウは38ドル高の14127ドルで史上最高値に接近中。5日朝方の為替レートはドル円は93円台半ば、ユーロ円は121円台後半で、前日とあまり変わらない水準だった。日経平均は80.28円高の11732.57円で始まり、すぐ11750円にもタッチ。午前10時台には衆議院議院運営委員会で日銀副総裁内定者の学習院大学教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏の「所信聴取」が始まり、FRB流の量的緩和が持論の岩田氏は「今まで以上の量的緩和を進める」「物価目標の達成は日銀が全面的に責任を負う」「2%の物価目標を2年以内に達成できなければ私はやめる」と見得を切り、日銀きっての国際派の中曽氏も「デフレ脱却のまたとないチャンス」と、黒田氏、岩田氏をフォローする姿勢を見せた。これを市場が喜ばないはずはなく、為替は円安が進行し、日経平均は取引時間中では4年5ヵ月ぶりの高値11779円、TOPIXは1000タッチまで上昇した。

 しかし、後場は一転して11700円を割り込み、日経平均がプラスでもTOPIXがマイナスの状態が延々と続く。材料出尽くしに加え、為替が少し円高に振れドル円が92円台になったこと、長期国債の入札が不調で債券先物が下落し金利が上昇したことなども影響したようだ。イタリア国債だけでなく日本国債の心配もすべきか? 終値は日経平均が31.16円高の11683.45円、TOPIXが-3.63の988.62と、「NTねじれ現象」は大引けまで続いた。その理由は日経平均がファーストリテイリング<9983>の終値+1400円、日経平均寄与度+56円の大幅高に引っ張られてプラスでも、TOPIXは値下がり銘柄数815が値上がり銘柄数738を上回り、時価総額の大きい大型株主体に下落してマイナスになったこと。ファーストリテイリングは前日に発表されたユニクロ国内店舗の既存店売上高が+9.6%で2ヵ月ぶり増収という材料があったとはいえ、8日のメジャーSQを前に日経平均をマイナスにしたくないという市場の意思も感じられた。売買高は30億株だったが、売買代金は2兆円を割り込んでいる。

 騰落率プラス上位は鉱業、水産・農林、精密、空運、卸売、小売、電機など。騰落率マイナス下位はパルプ・紙、保険、不動産、鉄鋼、倉庫、海運などだった。

 前日まで好調だった不動産株、倉庫株はこの日、利益確定売りに押された。三井不動産<8801>、三菱地所<8802>、住友不動産<8830>は揃って株価を下げ、野村不動産HD<3231>は値下がり率10位になり、倉庫株も下落銘柄が相次いだ。それでも値上がり率3位に入った百貨店の松屋<8237>の続伸164円高は目立っていた。代わりに浮上したのが「iPS」「シェールガス」「TPP・農業」「PM2.5」などの材料株で、iPS関連の新日本科学<2395>が300円高で値上がり率1位。シェールガス関連のトーヨーカネツ<6369>が56円高で昨年高値を更新して値上がり率2位に入り、売買高2位、売買代金5位と大商いだった。石井鐵工所<6362>も36円高の昨年来高値更新で値上がり率5位に入っている。農業関連の井関農機<6310>は28円高で値上がり率11位になり、マルハニチロ<1334>も7円高で昨年来高値更新と買われた。PM2.5関連のダイワボウHD<3107>は10円高、日本バイリーン<3514>は昨年来高値更新、計測器を製造する東証2部の東亜DKK<6848>も80円の大幅高で昨年来高値を更新した。

 電子部品の太陽誘電 はセラミックコンデンサの受注環境が改善し、みずほ証券がレーティングを中立から買いに、目標株価を760円から1400円に大幅に引き上げたのが好感され、昨年来高値更新の96円高で値上がり率9位になった。

 一方、大型株はおしなべて不調で、メガバンクは1円安のみずほ<8411>、20円安の三井住友FG<8316>、4円安の三菱UFJが売買代金1~3位に揃い、鉄鋼も新日鐵住金<5401>が4円安、JFEHD<5411>が58円安と不振で、自動車はトヨタ<7203>は10円安、ホンダ<7267>は値動きなし、マツダ<7261>は5円安、日産<7201>は2円安とさえなかった。

 ソニー<6758>の「3月決算対策資産大処分市」の第1弾は大崎の自社ビルだったが、第2弾はDeNA<2432>株。前日に全部手放して409億円の譲渡益を計上すると発表した。DeNAは売り込まれて118円安、ソニーも13円安、譲渡先の野村HD<8604>は値動きなしだった。それぞれ売買代金ランキングで8位、7位、6位に入り、この日の大きな売買材料になっていた。

 日本製紙<3893>が印刷用紙の15%値上げを発表して88円安で値下がり率12位だったが、同業の王子HD<3861>はSMBC日興証券が投資判断を引き下げた影響で値下がり率3位ともっと売られていた。アナリストは、電子端末の普及が進むと紙の値上げは需要を落ち込ませて製紙会社の業績には逆効果になると分析している。

 この日、注目されたのが「ベア」。と言ってもブルの逆の売りポジションではなく賃金の「ベースアップ」。セブン&アイHD<3382>が主要54社・約5万3500人を対象に賃上げを実施すると発表し、株価は4円高だった。従業員と株主は企業の儲けを奪いあうので、ベアのような労働分配率の向上は株主の分け前が減るので株価は下がるというのが教科書的な解説だが、小売・サービス業の場合はベア、所得増による個人消費の増加が業績改善に直結するので、必ずしも株主の利害と対立するとは限らない。先にベアで話題になったローソン<2651>も眼鏡店チェーンのジェイアイエヌ<3046>もセブン&アイHDも、みな小売業である。安倍首相は経済3団体首脳に賃上げを要請し、甘利経済再生大臣も経団連幹部との会談で要望。麻生財務大臣も3月1日に「労働分配率を考えてもらわないと消費は絶対に伸びない」と述べたが、経団連の米倉弘昌会長は「企業収益が回復に向かえば賞与・一時金も出せるし、景気が本格回復すれば雇用増大や給与の増大につながる」と答えた。製造業の大企業中心の経団連と、自社からベアを始めて産業界にアピールし、個人消費を活発にしようとする小売業の間には、まだ温度差がある。「バランスシート上で手元の現預金残高を大きく積み上げた企業は、それをベアに使える」ぐらい、言ってくれないだろうか。(編集担当:寺尾淳)