円安でも企業の4割が「マイナス」 変わる日本企業と為替の新常識

2026年06月15日 16:29

画・輸出企業、輸出先「中国」がトップ。中米韓で8割。東アジア連携が7割。

コンテナ港は日本企業の調達と物流を支える重要な拠点です。円安が輸入コストやサプライチェーンに与える影響が広がる中、企業は「円安メリット」よりも安定した為替環境を重視する時代を迎えています。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

東京商工リサーチが本日発表した為替に関するアンケート調査によると、1ドル=159円前後の為替水準について、企業の40.7%が「経営にマイナス」と回答しました。企業が望ましいと考える為替レートの平均は1ドル=136.8円であり、現在の実勢相場とは約20円もの開きがあります。かつては輸出企業を中心に日本経済の追い風とされた円安ですが、グローバルな調達構造の変化やエネルギーコストの上昇を背景に、日本企業の受け止め方は大きく変化しています。

本文
 株式市場が地政学リスクの後退を好感し、歴史的な急騰劇を演じるその裏側で、日本国内の実体経済を支える企業の大半は、長引く円安基調に対して強い警戒感を募らせています。東京商工リサーチが公表した2026年6月の「為替に関するアンケート調査」は、そうした市場の「光」とは対照的な、現場の「影」のリアルな実態を浮き彫りにしました。

 5月末時点の1ドル=159円前後の円相場に対し、実に企業の40.7%が「経営にマイナス」と回答。対して「プラス」と答えた企業はわずか3.2%に留まり、「影響はない」の38.9%、「プラス・マイナス双方に影響」の15.8%を大きく上回る結果となりました。2024年に実施された同様の調査でも、1ドル=156円前後の局面で過半数の企業がマイナスと回答しており、足元の円安が日本企業にとって明らかな負担となっている構図に変化はありません。

 この変化の本質は、生産や販売のグローバル化に伴い、日本企業の調達構造そのものがかつてとは一変している点にあります。これまでは「円安=輸出企業の利益増、ひいては日本経済への追い風」という大前提が語られてきましたが、現代の製造業や流通業においては、部品や原材料、さらには電力や燃料といったエネルギーを海外からの輸入に依存する比率が極めて高くなっています。そのため、輸出事業で得られる円安の恩恵を、調達コストの膨張が上回り、収益を圧迫しやすい構造へと変貌を遂げているのです。他の民間調査でも、円安によるマイナス要因として「原材料価格の上昇」や「燃料・エネルギー価格の上昇」を懸念する企業はいずれも7〜8割に達しており、コスト増の波は全産業に広く波及しています。

 こうした負荷感が最もダイレクトに現れているのが、仕入れや原材料調達の最前線に立つ業種です。調査を業種別に見ると、円安が経営に「マイナス」と答えた割合は、卸売業が52.6%と半数を超え、次いで小売業が49.8%、製造業が47.5%と突出しています。海外から商品を仕入れる比率が高い卸売や小売の現場では、急激なコスト増加分をそのまま末端の販売価格へと迅速に転嫁することが難しく、値上げによる消費者の買い控えを恐れるあまり「コスト増を自社で吸収せざるを得ない」という構造的なジレンマに直面しています。また製造業にとっても、原材料や電子部品の価格高騰に加え、サプライチェーン全体に及ぶ物流コストの上昇が重なり、為替の変動がダイレクトに利益を削る経営リスクとして意識されています。

 ここで注目すべきは、企業が求めているのは極端な円高への反転ではないという点です。調査において企業が「望ましい」と回答した為替レートの平均値は1ドル=136.8円(中央値140.0円)であり、160円前後の現行水準からは20円以上の開きがあります。さらに企業規模別に見ると、大企業の希望平均が140.4円(中央値145.0円)であるのに対し、中小企業は平均136.5円(中央値140.0円)と、より円高水準を望む声が強いことも判明しました。

 これは中小企業ほど仕入れ価格の上昇を価格に転嫁しにくく、円安の直撃を受けている現実を示唆しています。企業の本音は二者択一の極端な相場ではなく、仕入れの見通しや設備投資、長期の経営計画を安定して立てることができる「過度な円高でも円安でもない、安定した水準」にあります。実際に、4割を超える企業が160円未満の段階での為替介入による過度な変動の抑制を望んでおり、「過度な変動は早期に抑制してほしい」という声が上がっています。

 円安は長らく日本経済を牽引するポジティブなキーワードとして語られてきましたが、企業のグローバル化と輸入依存度の高まりによって、その前提は大きく変化しています。為替はもはや、一部の輸出大企業だけが恩恵を享受する限定的な指標ではありません。原材料、物流、そしてエネルギー価格を通じて日本企業全体の収益環境を左右する、最も重要な「経営インフラ」としての性格を強めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)