AI時代を支える次世代計算基盤へ 日立・インテル・産総研が量子コンピュータ量産技術を開発

2026年07月24日 11:48

画.IntelのAI戦略 IoTからクラウト_まて_の領域て_AI実装を加速

半導体の量産技術を活用したシリコン量子コンピュータの実用化に向け、日立、インテル、産総研が共同研究を開始した。設計から製造、クラウド運用までを一体で進め、次世代計算基盤の構築を目指す。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

日立製作所は、インテルおよび産業技術総合研究所と連携し、NEDO事業の採択を受けてシリコン量子コンピュータの研究開発を開始しました。今回の特徴は、単なる基礎研究にとどまらず、半導体の量産技術を活用し、産業応用を見据えた設計・製造・クラウド運用までを一体で開発する点にあります。計算需要が拡大するなか、日本が次世代計算基盤の実用化へ一歩踏み出した取り組みとして注目されます。

本文
 日立製作所は、インテルおよび産業技術総合研究所(産総研)と連携し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」における量子コンピュータ次世代機開発・実証テーマに採択されたと発表しました。実施期間は2029年3月までを予定しています。今回の取り組みの最大の特徴は、研究室レベルの基礎実験にとどまらず、既存の半導体量産技術を活用してシリコン量子コンピュータの「産業化」を見据えた開発を進める点にあります。AIをはじめとするデジタル社会の進展に伴い急速に膨らむ計算需要を支えるため、次世代インフラの構築に向けた実用化のステップを進めた形です。

 現在、AIの急速な普及と高度化に伴い、社会や産業を支える計算需要が急速に拡大しています。これに伴いデータセンターなどの計算基盤における電力消費の増大が懸念されているほか、創薬や材料開発、エネルギーシステム、物流の最適化など、従来型のコンピュータだけでは対応が難しい複雑な課題も顕在化しています。こうした中、将来的な計算需要に対応し、従来型コンピュータでは対応が難しい課題への対応が期待される「次世代の計算基盤」として量子コンピュータへの関心が高まっています。

 今回の開発における最大のポイントは、「量産・産業化」を前提とした開発体制です。実用的な量子計算には、ノイズによる誤りを補正できる「誤り耐性型量子コンピュータ」の実現が不可欠です。そのためには将来的に100万量子ビット規模が必要とされており、大規模化に向けた製造プロセスの確立が課題となっています。シリコン量子コンピュータは既存の半導体製造技術を応用できるため大規模化に適していますが、これまではデバイスごとの性能ばらつきや製造技術の確立が課題でした。本事業では、インテルの最先端半導体製造技術「18Aプロセス」を活用し、量産を見据えた量子ビットチップの設計や製造ルールの整備(PDKの開発)を進めます。さらに将来的な1,000量子ビット級システムに向けた高密度の3D実装技術の開発まで踏み込むことで、研究成果を量産可能な産業技術へと橋渡しします。

 もう一つの特徴は、設計・製造から運用までを一貫して見据えた産官学のエコシステムづくりです。日立はチップ設計や高密度パッケージング、クラウドシステムの開発を担い、インテルは最先端の半導体プロセスやPDK(プロセスデザインキット)を提供します。また、産総研はG-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)を通じて実験環境をクラウド上で公開し、外部の研究者や企業が参画できる環境を整えます。NEDOによる事業支援のもと、単一企業の閉じられた研究ではなく、産業全体で「使える量子コンピュータ」を育てる体制が組まれています。

 今回のNEDO事業への採択は、日本の量子技術の実用化に向けた取り組みの一環として位置付けられます。日立は内閣府のムーンショット型研究開発事業などでも基礎的な研究を重ねてきましたが、今回のプロジェクトはそうした成果を社会実装や新産業の創出へ移す実用化へ向けたステップと位置づけられます。次世代計算基盤の確保は国の産業競争力にも直結するテーマであり、研究成果の事業化に向けた官民の取り組みが進んでいます。

 今後の焦点は、工程表通りに開発を進め、競争力のある量産・提供体制を確立できるかにあります。日立らは2027年度までに試作環境のクラウド公開を行い、2028年度に100量子ビット、2030年度に1,000量子ビット規模の試作機実現を目指すロードマップを掲げています。各国で量子技術への投資が進む中、日本が強みを持つ半導体実装技術や製造プロセスの知見を活かし、研究成果をいかに早く産業競争力へ結び付けられるかが注目されます。

 今回の発表は、量子コンピュータの研究開発そのものよりも、「研究から産業化への転換」を示す点に意義があります。将来の計算需要を見据え、日本は半導体の量産技術と量子技術を融合させながら、次世代計算基盤の構築を進めようとしています。日立、インテル、産総研による連携は、その構想を具体的な産業基盤へとつなげる一歩であり、今後は、研究成果を産業競争力や社会実装へ結び付けられるかが、日本の量子技術の競争力を左右する重要なポイントとなりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)