「貯蓄から投資」次の段階へ 政府が2040年に資産運用4割を目指す理由

2026年07月25日 17:22

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政府は2040年までに家計金融資産に占める有価証券の割合を4割へ引き上げる目標を掲げ、資産形成を後押しする方針を示している。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

政府は「成長投資を促進するための金融戦略」で、2040年までに家計金融資産に占める株式・投資信託・債券の割合を40%へ引き上げる目標を掲げました。片山財務大臣は、NISAやiDeCoの制度改善、金融経済教育の充実を通じて、国民が成長の成果を享受できる資産形成を目指す考えを示しました。一方で、投資リスクへの理解や、投資余力の乏しい世帯への配慮も重要な課題となります。

本文
 「貯蓄から投資へ」――この言葉が提唱され始めてから20年以上が経過しました。しかし、政府が新たに打ち出した目標は、これまでのような抽象的なスローガンとは一線を画しています。2040年までに、家計の金融資産に占める株式や投資信託、債券の割合を40%へ引き上げるという、具体的な長期数値目標が示されたためです。なぜ今、政府は家計資産の運用比率をここまで重視し、構造改革を進めようとしているのでしょうか。

 まず、今回設定された目標の数値を整理します。政府の「成長投資を促進するための金融戦略」では、2040年までに家計金融資産のうち有価証券(株式・投資信託・債券)が占める割合を、現在の欧州並みとされる「4割」にするとしています。2025年3月時点の日本の家計資産における有価証券割合は約2割(残り約半数は現金・預金)にとどまっており、今回の目標は今後15年ほどでその比率を「ほぼ倍増」させることを意味します。

 政府がこれほど大胆な目標を掲げる理由は、単に株式市場を活況にすることだけではありません。背景には、日本経済が抱える構造的課題に対処するための複数の政策目的が存在します。

 第1に、家計に眠る膨大な資金を国内外の「成長企業」やイノベーション分野(今後見込まれる370兆円規模の成長投資など)へ効率的に循環させる狙いがあります。第2に、企業が上げた成長の果実を、配当や株価上昇を通じて「家計の資産増」という形で国民へ還元することです。第3に、少子高齢化と長寿化が一段と進む中で、公的年金だけに依存しない自律的な資産形成を支える必要性です。つまり、今回の目標は単なる金融振興策ではなく、日本経済の「成長と分配の好循環」を目指す経済成長戦略の一環と位置付けられます。

 これまでの「貯蓄から投資」施策は、NISA(少額投資非課税制度)の創設や拡充、iDeCo(個人型確定拠出年金)の対象拡大など、個別の「制度を整えて使いやすくする」フェーズが中心でした。しかし今回の金融戦略では、制度の用意から踏み込み、「日本全体の家計資産の構造をどう変えていくか」というマクロ的なゴールを明示した点に大きな画期性があります。

 一方で、家計の投資比率を引き上げることに対しては、根強い懸念や課題も指摘されています。

 市場変動に伴う元本割れリスクのほか、物価高の中で「投資に回す資金的な余裕がない」低所得者層が置き去りにされる格差問題、金融リテラシーの個人差などが挙げられます。こうした批判に対し片山財務大臣は会見で、「ご指摘やご批判は謙虚に受け止める」とした上で、金融経済教育推進機構(J-FLEC)などを通じた全世代向けの金融教育の推進や、企業型DC・iDeCoのさらなる制度改善に取り組む方針を示しました。重要なのは、単に「投資を促す」だけでなく、リスクを正しく理解した上で無理のない範囲で資産形成を行える「環境整備」をセットで進める姿勢です。

 実際、国民の資産形成に対する意識は変化の兆しを見せています。片山大臣が言及したように、NISAの口座数はすでに約2,800万口座に達しており、日本の人口の4分の1以上が保有する規模になっています。「株式投資は一部の富裕層だけのもの」という従来の固定観念は崩れつつあります。ただし、口座開設数が増えたことと、実際に十分な額が長期・継続的に運用されているかは別問題であり、過度な楽観論は禁物です。

 2040年までの「4割」という目標が現実のものとなるかどうかは、金融制度の使いやすさだけでなく、前提となる足元の経済環境にかかっています。大臣自身も認めるように、実質賃金の上昇を定着させ、家計に継続的な「投資余力」が生まれる経済状況を作り出すことが何より重要な条件です。

 「貯蓄から投資」は、制度をつくる段階から、国民が成長の恩恵を安全に実感できる仕組みとして定着させる段階へ移りました。家計の資金が企業成長を支え、その還元が再び家計を潤すという好循環を構築できるか、日本の金融戦略は本当の正念場を迎えています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)