犯行グループのスマホから通信内容把握へ 警察庁が新たな法制度を検討、E2E暗号化に対応

2026年08月13日 07:42

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警察車両(イメージ)。警察庁は、匿名・流動型犯罪グループ対策として、犯行グループの端末から通信内容などを把握するための新たな法制度を検討している

今回のニュースのポイント

警察庁は、匿名・流動型犯罪グループによる特殊詐欺や強盗事件への対策として、犯行グループが使用するスマートフォン端末から通信アプリの内容などを迅速に把握するための新たな法制度の検討を開始しました。エンド・ツー・エンド(E2E)暗号化を用いる秘匿性の高い通信アプリが犯罪に悪用され、従来の通信傍受や事業者経由のデータ取得では犯行指示の解明が困難になっているためです。切迫する犯罪被害の防止に活用する一方、どのような法的要件で情報の取得を認めるかなど、適正性の確保が大きな焦点となります。

本文
 警察庁は10日、匿名・流動型犯罪グループ(いわゆる「トクリュウ」)による凶悪犯罪や特殊詐欺を防ぐため、有識者検討会(第1回)を開始し、犯行グループが利用するスマートフォン端末から犯行指示などの通信内容を迅速に把握する新たな法制度の検討に入りました。秘匿性の高い通信アプリの悪用により、従来の通信傍受などでは指示役の解明が阻害されている実態に対応する狙いがあります。

■特殊詐欺被害は「1日約10億円」、切迫する治安上の危機

 背景にあるのは、匿名・流動型犯罪グループによる被害の急増です。警察庁の資料によると、2025年(令和7年)の特殊詐欺被害額は約3257億円(前年比約64%増)と過去最悪を記録しました。さらに2026年上半期の被害額も暫定値で約1816億円(前年同期比約52%増)に達し、資料内では「1日当たり約10億円」がだまし取られている「異常な事態」と位置付けられています。

 また、首都圏を中心に連続発生した強盗・窃盗事件に加え、2026年5月には栃木県内で強盗殺人事件が発生しました。これらの犯罪では、インターネット上でSNS等を通じて集められた実行役が指示役の指示を受けて犯行に及んでいます。「捨て駒」とされる実行役を逮捕しても、次々と新たな実行役が補充されるため、上位の指示役や犯行計画を特定して被害を未然に防ぐ手段の確立が急務となっています。

■従来の通信傍受等を困難にする「E2E暗号化」

 犯行グループの特定を困難にしている要因の一つが、通信アプリで用いられている「エンド・ツー・エンド(E2E)暗号化」です。

 E2E暗号化では、通信内容が送信者側の端末で暗号化され、受信者側の端末で復号されるため、通信経路上で通信内容を把握することが技術的に困難になります。警察庁は、こうした技術の普及によって、刑事訴訟法や通信傍受法に基づき通信事業者の協力を得てデータを取得したり、通信経路でデータを傍受したりする従来の捜査手法では通信内容を把握することが困難になっていることを課題として挙げています。

■「暗号解読」ではなく端末側からの情報把握を検討

 警察庁の資料が検討対象として示しているのは、E2E暗号そのものを通信経路上で解読する制度ではなく、犯行グループの端末から通信内容等を把握するための技術的措置です。ただし、具体的な技術的措置や取得対象は現時点で決まっていません。

 犯行グループが所有・使用するスマートフォンには、標的(ターゲット)の氏名や住所、犯行予定日時・場所、武器の準備状況、あるいは詐欺の進行状況などの重大な情報が存在する可能性があります。これらの情報を端末側から把握できれば、犯人をその場で直ちに特定・検挙できない段階であっても、標的となった住民への警備や防犯指導などを通じ、切迫する犯罪被害を未然に防止できる可能性があります。

■「保存データ」か「流れる通話」か、法制度の論点

 制度の設計に向けては、スマートフォンで扱われるデータの性質に応じた法的議論が必要となります。資料では、スマートフォンで取り扱われる情報を以下の2つに大別しています。

・端末に保存されている情報:電話帳、発着信履歴、アプリの友達リスト、メッセージ送受信履歴、写真・文書ファイルなど

・端末に保存されない情報:リアルタイムで発着信される通話音声など

 そのうえで、こうした技術的措置を実現する法制度を導入する場合、「行政手続と刑事手続のどちらが適切か」、あるいは「端末に保存された過去データの取得にとどめるか、継続的に流れる音声・データまで捕捉対象とするか」といった点が検討項目として提示されています。

■犯罪防止の実効性と人権・プライバシー保護の両立

 個人のスマートフォン端末内の情報へアクセスする措置に対しては、厳格な適正性担保が求められます。有識者検討会では、措置を認めるための法的要件として、犯罪発生のおそれ(切迫性)、措置の対象範囲、緊急性、他の手段では代替できない補充性などをどのように設定すべきかが議論されます。

 既存の制度としては、裁判官の令状に基づく「電磁的記録提供命令」や「通信傍受」のほか、サイバー領域で導入されたサイバー通信情報監理委員会の承認を要する「アクセス・無害化措置」などが比較対象として挙げられています。

 E2E暗号化は一般利用者の通信の安全やプライバシーを保護するため広く利用されている一方、犯罪グループによる悪用への対応も課題となっています。切迫する犯罪被害を食い止める実効性と、公権力がアクセスする際の適切な法的統制をいかに両立させるかが、今後の法制度検討の大きな焦点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)