AI投資、2030年に最大4兆ドルとの予想 BIS総支配人が警戒する「債務」と循環型ファイナンス

2026年09月11日 14:12

データセンターイメージ

AI関連投資の主要分野となるデータセンターのイメージ。デコスBIS総支配人は、AI設備投資の拡大に伴い、債務やプライベートクレジットへの依存が強まっていると指摘した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

国際決済銀行(BIS)のパブロ・エルナンデス・デコス総支配人は10日、インド・ムンバイで開催されたGlobal Fintech Fest 2026で講演し、拡大を続けるAI(人工知能)関連投資が世界経済や金融安定に与える影響について分析を示しました。デコス氏によると、大手テクノロジー企業5社だけで2025~2026年の2年間に投じるAI関連の設備投資額は合計1兆ドルを超え、2030年には業界関係者の見通しとして世界のAI投資が3兆~4兆ドル規模へ急拡大する可能性があります。一方で設備投資がキャッシュフローを上回り、債務やプライベートクレジットへの依存が強まっていることや、関連企業間の「循環型ファイナンス」に触れ、期待収益が実現しなかった場合の投資反転リスクへ注視を促しました。

本文
 国際決済銀行(BIS)のパブロ・エルナンデス・デコス総支配人は10日、インド・ムンバイで開かれた「Global Fintech Fest 2026」において講演を行い、AI関連投資の急速な拡大に伴う経済成長機会と金融安定上の課題について見解を述べました。なお、本講演内容はデコス氏個人の分析と指摘に基づくものであり、BISや加盟中央銀行の統一的な見解を示すものではありません。

 デコス氏が提示したデータによると、大手テクノロジー企業5社(ハイパースケーラー等)によるAI関連の設備投資額は、2025年から2026年までの2年間で合計1兆ドルを超える見通しとなっています。投資対象はデータセンター、AI向け半導体製造、クラウドインフラストラクチャー、周辺ハードウェアなど多岐にわたります。さらに、講演内で紹介された業界関係者の予測として、現在約5,000億ドルとされる世界のAI関連投資が、2030年には3兆~4兆ドル規模へ拡大する可能性が指摘されました。

 デコス氏が強い関心を示したのは、AI投資における資金調達構造の変化です。大手企業の設備投資額がキャッシュフローを上回り始めるなかで、債務、特にプライベートクレジット(非銀行による直接融資)等への依存を深める傾向がみられています。あわせて、AI関連企業の株価評価が将来の高い収益性を前提に高水準へ押し上げられ、特定の主要企業へ投資が集中する傾向も強まっています。

 また、講演では「いわゆる循環型ファイナンス(so-called circular financing)」と呼ばれる企業間の資金・取引関係についても言及されました。これは、半導体メーカーやハイパースケーラーが新興のAI企業に出資し、出資を受けたAI企業が今度は出資側メーカーの半導体や計算資源(コンピューティングパワー)を購入することを約束する構造を指します。デコス氏は、こうした資金・取引の結びつきは不透明かつ相互接続的であり、外部から観察やリスク評価を行うことが難しい場合があると指摘しました。

 金融安定の観点から警戒されるリスクとして、AI関連事業から期待される将来の収益が実際には実現しなかった場合の影響が挙げられました。AI企業間の激しい投資競争が過剰投資につながり、期待された収益を下回った場合、現在の設備投資ブームが一転して急減速する可能性があります。デコス氏は、1830年代の英国運河投資、1840年代の鉄道狂時代(レイルウェイ・マニア)、1920年代の電化、1990年代後半のドットコムブームなど、過去の主要な技術革新の歴史を例示しました。これらは新技術が経済を変革した一方で、最終的な収益性で正当化できる水準を超えて資本が流入し、その後の市場調整が経済全般へ波及した共通点を持ちます。

 ただし、デコス氏は現在のAIブームが必ず過去の投資ブームと同じような結末をたどると主張しているわけではないと明確に留保しています。生成AIなどの技術は生産性を実際に引き上げるポテンシャルを有しており、既存の研究において個別の業務生産性が10~65%向上し、処理時間が20~50%短縮された実証データがあることも紹介されました。AIの技術的価値を否定するのではなく、投資のスピードと規模、そして期待の大きさが金融市場へ与える影響に留意する必要があるという位置づけです。

 市場での株価再評価が起きた場合の影響範囲についても分析が示されました。現在、世界の家計は過去と比べて株式などの有価証券を直接・間接に多く保有しているため、AI関連株が大幅に調整された場合、資産効果を通じて家計の消費行動へ及ぶ影響が大きくなる可能性があります。米国株式市場が世界全体の時価総額に占める割合が高いことも踏まえ、株価の変動が実体経済や国境を越えて波及する経路が存在すると指摘されています。

 巨額の資金が流れ込むAI分野は、半導体やインフラ需要を通じて足元の世界経済を支える主要な投資領域となりました。しかし、設備投資がキャッシュフローを上回り、資金調達が債務やプライベートクレジットへと広がり、関連企業間で循環型ファイナンスと呼ばれる資金・取引関係もみられるなかで、市場の将来期待と現実の収益性との整合性が問われています。AI投資が2030年に最大4兆ドル規模へと拡大するとの業界予想も示されるなか、中央銀行や金融当局にとってAIは、生産性向上による経済成長の側面だけでなく、信用市場や金融システムの安定性をモニタリングする重要テーマとして浮上しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)