生成AIを利用するイメージ。消費者委員会の専門調査会では、対話型AIが消費者の選好形成や意思決定に関与し得ることを踏まえ、「AI版セールスパーソン」をめぐる消費者リスクや環境整備について検討している(画像はイメージ)
今回のニュースのポイント
内閣府の消費者委員会・専門調査会は9日、生成AIやエージェント型AIの普及に伴う消費者問題の検討状況(案)を公表しました。焦点となっているのは、従来の誤情報(ハルシネーション)問題にとどまらず、AIが消費者の対話を通じて好みや迷いを把握し、購入選択や意思決定に関与し、技術的には意思決定自体を代替し得る段階になっている点です。専門調査会は、こうした対話型AIを従来とは質的に異なる「AI版セールスパーソン」とも表現し、消費者自身が影響を自覚できないリスクを含めた環境整備の議論を進めています。
本文
内閣府消費者委員会の「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」は9日、AI技術の進展が消費者の意思決定プロセスに及ぼす影響とリスクを整理した検討状況(案)を提出しました。
まず、個人におけるAI利用は急速に拡大しています。資料によると、業務および業務外を含む個人のAI利用経験者は2023年度から2025年度にかけて6倍超に急増し、国民の半数を超えました。この利用経験者のうち、日常の行動や判断に関する相談を定期的に行っている人の割合は約15%、日常的な会話を目的として利用している人の割合は約11%に達しています。AIは単なる業務効率化ツールを超えて、個人の日常生活へ浸透しつつあります。
こうした利用拡大に伴い、消費者と情報の接点にも質的な変化が生じています。従来の検索エンジン利用では、消費者自身がキーワードを入力し、表示された一覧から情報を選び取っていました。これに対し対話型AIでは、繰り返される会話の中で利用者の状況、迷い、感情、価値観などの文脈が蓄積され、提示される情報が個別化されます。専門調査会では、柔軟で配慮的な対話型インターフェースを備えた、従来の手法とは異なる「AI版セールスパーソン」が出現しつつあると位置付けています。
この変化において重要視されているのが、消費者の「選好形成」段階への関与です。消費者は最初から自分の欲しい商品を明確に認識しているとは限りません。資料では、AIが対話ログから利用者の曖昧で潜在的なニーズを推論して提案できることや、対話を通じて消費者自身の「抽象欲求」が整理・具体化される可能性を指摘しています。さらに、AIの質問設定や対話の口調によって、消費者の好みや選択軸の形成過程そのものに一定の影響を及ぼし得るとしています。
AIが利用者の判断に与える影響については、専門調査会で紹介された研究事例でも示されています。東京大学大学院の矢谷浩司教授が提示した研究(Yang et al., 2026)では、利用者の判断基準に合わせる度合いを調整したAIの説明を受けた際、客観的・主観的タスクにおいて利用者の基準に近い説明ほどAIへの同意率が上がり、判断を変える傾向が確認されました。高リスクなタスクでは明確な判断変化は見られなかったものの、満足度や信頼感といった主観的評価が上昇しました。この研究は、個別化されたAIの説明が必ずしも良い判断につながらない場合であっても、利用者の満足度が高まってしまう可能性を示唆しています。
専門調査会がリスクとして挙げているのは、消費者自身による自衛の難しさです。継続的かつ個別化されたAIからの働きかけにより、個人の処理能力を超えた購買や、従来の価値観とは異なる選択へ誘導されるリスクが提示されています。さらに、消費者自身がAIから影響を受けていることを自覚できず、消費生活相談などの現場に苦情として表れない可能性が高いことも課題視されています。実際に、事前にAIへ相談していた消費者が、相談員の回答とAIの回答が異なる場合に「相談員が間違っている」と主張してトラブルになる事例も報告されています。
なお、今回の発表は専門調査会における「検討状況(案)」であり、新たなAI規制や法制度の導入を決定したものではありません。専門調査会は、AIのポジティブな影響を活用しつつ、意思決定プロセスに与えるリスクを正しく評価することが重要だとしています。そのうえで、個人のAIリテラシー向上と並行し、消費者の意思決定リスクに対応するための環境整備について、具体的に検討していく方向性を示しています。
生成AIと消費者の関係は、回答の真偽を確かめる段階から、選択肢や欲求の形成そのものへAIが関与する段階へと移りつつあります。「AI版セールスパーソン」としての側面を持つAIが広がるなか、消費者個人の自衛だけに依存しない社会的な環境整備のあり方が、今後の主要な議論となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













