薬物問題、検挙統計だけでは見えない実態 依存症治療と社会復帰支援の仕組みを検証

2026年10月12日 16:21

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警視庁のパトカー。薬物問題への対応では、違法行為の取締りに加え、依存症の治療や社会復帰に向けた継続的な支援も重要となる。(写真はイメージ)

今回のニュースのポイント

警察庁が公表した2025年の薬物情勢によると、依然として多数の薬物事犯が検挙されています。しかし、検挙人員は警察の取締りによって把握された人数であり、国内の薬物使用者全体の規模を示すものではありません。薬物問題の解決には刑事上の取締りだけでなく、厚生労働省が進める依存症相談拠点や専門医療機関での治療、さらにはWHOやUNODCが提唱する国際基準に沿った社会復帰支援の充実が不可欠となっています。

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 薬物問題をめぐっては、違法行為に対する取締りと、薬物使用障害に対する医療・福祉的支援という、性質の異なる二つのアプローチが存在します。警察庁が2026年4月に公表した「令和7年の組織犯罪の情勢」によると、2025年の薬物事犯の検挙人員は1万4574人となり、前年から増加しました。薬物対策の実効性を検証するためには、司法・取締り上の統計に加え、治療や社会復帰支援に関する制度の実態を多角的に把握することが求められます。

 2025年の警察庁統計では、大麻事犯の検挙人員が6832人となり、過去最多を更新しました。2024年の麻薬取締法改定等も含めた法体系の変化の中で、取締りの現場では個別の事案に応じた厳格な運用が行われています。ただし、これらの検挙統計は法執行機関が摘発した実績であり、摘発に至っていない潜在的な使用者数や、押収量そのものが社会全体の薬物流通量に直接比例するわけではありません。

 年齢層別の動向を見ると、大麻事犯における30代未満の若年層の割合が高水準で推移しており、全体の約7割を若年層が占める特徴が継続しています。こうした検挙人員の数値は取締りによって把握された状況を示す指標ですが、違法薬物を一度でも試したことがある人や、継続的に使用している人全体の総数を直接算出したものではない点に留意が必要です。取締り統計だけでは、医療や相談を必要としている潜在的なリスク層の全体像までは捕捉しきれません。

 取締りとは異なる側面として、厚生労働省は薬物依存症を含む依存症対策を推進しています。全国の精神保健福祉センターや保健所が身近な相談窓口として機能するほか、各都道府県に設置が進む依存症治療拠点機関や専門医療機関が、医療的評価や治療プログラムを提供しています。また、依存症相談員を配置した専門の相談拠点が整備され、当事者や家族からの相談に応じる体制が構築されています。

 医療的な処置に加え、継続的なケアや地域での生活再建を目指す社会復帰支援の枠組みも運用されています。民間団体や回復支援施設(リハビリ施設)との連携、保護観察所と医療機関が連携した再犯防止プログラムなどが実施されています。ただし、こうした支援体制や相談拠点が制度として整備されていることと、実際に支援を必要とする人々が円滑にアクセスできているかという利用実態や改善効果については、別個の検証課題として捉える必要があります。

 国際的な視点においても、薬物使用と治療を区別して捉える重要性が示されています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「World Drug Report 2026」では、2024年に世界で過去12か月間に薬物を使用した人を推計3億3100万人と推計しています。世界的な推計と日本の検挙統計は前提条件や概念が異なるため直接比較はできませんが、WHOとUNODCが共同作成した「薬物使用障害の治療に関する国際基準」では、薬物依存を保健医療や社会福祉の枠組みで捉え、根拠に基づいた継続的ケアを提供することが世界的な到達点として共有されています。

 薬物問題への対応を検証する際には、検挙人員の増減という単一の警察統計にのみ依存するのではなく、相談体制や治療へのアクセス状況、地域社会での回復支援の実態を独立した指標として検証していく姿勢が不可欠です。刑事罰による取締りという規律と、医療・福祉による治療・社会復帰支援という救済機能の双方が、それぞれの制度的役割に基づき適切に機能しているか、客観的なデータによる観察が今後も求められます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)