豪州、レアアース開発に最大1.8億豪ドルの政策金融 重要鉱物の生産・加工投資を後押し

2026年10月28日 11:34

採掘場のイメージ

鉱物資源の採掘現場。豪州政府は重要鉱物の供給網強化に向け、レアアース開発事業への最大1億8,000万豪ドルの政策金融を条件付きで承認した(イメージ画像)

今回のニュースのポイント

豪州政府は10月27日、Donald事業に対し、政府系金融機関による最大1億8,000万豪ドルの融資を条件付きで承認したと発表しました。正式な融資契約や資金実行は今後の手続きとなります。タンタル生産にも4,140万米ドルの融資を条件付きで承認しています。一方、Nolansレアアース事業は建設段階に入り、Finnissリチウム鉱山は採掘を再開しています。豪州は政府系金融や民間資金、海外企業との販売契約を組み合わせ、重要鉱物の採掘から加工、商業供給までの体制整備を進めています。

本文
 豪州政府は2026年10月27日、重要鉱物の安定供給体制を強化するため、ビクトリア州で計画されているドナルド(Donald)レアアース・鉱物砂プロジェクトに対し、政府系金融機関による最大1億8,000万豪ドルの融資を条件付きで承認したと発表しました。正式な融資契約や資金実行は今後の手続きとなります。支援の内訳は、豪州輸出金融機関(Export Finance Australia: EFA)による最大7,000万豪ドルの融資と、豪州国家再建基金(National Reconstruction Fund Corporation: NRFC)による最大1億1,000万豪ドルの融資・資金支援です。あわせて豪州政府は、電子部品などに使われるタンタルを生産するグローバル・アドバンスト・メタルズ(Global Advanced Metals)に対しても、EFAから4,140万米ドルの融資を条件付きで承認したことを明らかにしました。

 今回の支援対象となったDonald事業は、豪アストロン(Astron Limited)と米エネルギー・フューエルズ(Energy Fuels)による合弁開発案件です。第1期計画において、レアアース元素を含む精鉱(REEC)を年間約9,000トン、ジルコンやチタンを含む重鉱物精鉱(HMC)を年間約22万5,000トン生産する計画が掲げられており、鉱山寿命は約40年が見込まれています。採掘されたレアアース精鉱は米Energy Fuelsが引き取り、同社が米ユタ州に保有するホワイトメサ(White Mesa)精錬施設へ輸送して酸化物等への加工を行うサプライチェーンが想定されています。豪州政府の発表によると、建設時には約200人の雇用が見込まれています。現在進められている最大1億8,000万豪ドルの政策金融は、同事業が目指す総額2億豪ドルのプロジェクト融資枠の一部を構成するものであり、両社は2026年末までの最終投資決定(FID)の達成を目指しています。

 豪州では、Donald事業のような開発前段階の案件にとどまらず、すでに本格的な建設段階へ移行した重要鉱物プロジェクトも進展しています。豪貿易投資促進庁(Austrade)が10月27日に紹介したノーザンテリトリーのアラフラ・レアアース(Arafura Rare Earths)によるノーランズ(Nolans)プロジェクトは、鉱石の採掘から酸化物の製造までを一貫して手掛ける豪州初の事業です。同事業は2026年5月に最終投資決定を行い、同年9月に本格的な建設工事を開始しました。商業運転時には、永久磁石の原料となるネオジム・プラセオジム(NdPr)酸化物を年間約4,440トン生産する計画で、これは世界のNdPr酸化物需要の約4%に相当するとされています。初期生産の開始時期は2029年を予定しており、Donald事業のレアアース精鉱とは加工段階の異なる高純度製品の供給を目指しています。

 Nolans事業の推進力となっているのは、多国間の公的金融機関や機関投資家による大規模な資金調達パッケージです。同社は世界5カ国の公的機関などから、出資や融資を含めて総額16億米ドル超の資金コミットメントを確保しています。この枠組みには、ドイツ復興金融公庫(KfW)による5,000万ユーロの出資契約や、豪EFAによる1億米ドル相当の株式引受、豪国家再建基金(NRFC)による2億豪ドルの資金枠などが含まれています。さらに、生産される酸化物はドイツ、米国、韓国などの大手製造企業との間で長期引取契約が締結されています。公的なリスク低減策と民間資本、そして確固たる需要家との販売契約が結び付くことで、莫大な資本と年数を要する精錬一体型鉱山インフラの着工が現実のものとなりました。

 一方、既存鉱山の操業再開という局面でも、機動的な民間ファイナンスと国際投資の連携が機能しています。Austradeが同日公表した事例によると、コア・リチウム(Core Lithium)がノーザンテリトリーで手掛けるフィニス(Finniss)リチウム事業は、2026年5月に採掘活動を再開しました。同事業は、市況低迷局面を経て、転換社債9,900万豪ドル、担保付き融資7,100万豪ドル、株式調達1億2,000万豪ドルで構成される総額2億9,000万豪ドルの資金パッケージを組成しました。この資金には英グレンコアや、仏政府が支援するインフラビア(InfraVia)の重要鉱物ファンドなどが参画しています。同事業は2026年第4四半期にリチウム精鉱(スポジュメン精鉱)の初出荷を予定しており、2028年半ばまでに年間約20万トンの精鉱を安定出荷する体制の確立を目指しています。

 民間企業によるこうした開発や操業再開の背景には、国を挙げた包括的な投資誘致策があります。Austradeは10月27日、最新の「重要鉱物投資案件集(Critical Minerals Prospectus)」を公表しました。同資料には豪州企業72社による計94件の投資対象プロジェクトが網羅されており、採掘などの上流部門が58件、精製・分離などの高付加価値な中流部門が36件掲載されています。豪州政府は50億豪ドル規模の「クリティカル・ミネラルズ・ファシリティー」や生産税制優遇措置、戦略的備蓄構想などを通じて、国内外の資本を呼び込む制度環境を整えています。ただし、案件集に掲載された94件はあくまで投資誘致の候補案件であり、すべての事業で資金調達や設備投資が確定しているわけではありません。

 今回取り上げた3つのプロジェクトは、重要鉱物の供給網構築における異なる段階を鮮明に示しています。Donald事業は政策金融の支援を得て最終投資決定に向けた資金組成を進める「開発準備段階」、Nolans事業は多国籍の公的資金と販売網をテコに精錬施設を立ち上げる「建設・加工整備段階」、そしてFinniss事業は民間資本の再編により生産を立て直す「操業再開・出荷段階」にあります。重要鉱物の供給力強化は、地中の埋蔵資源を確認するだけでは完結せず、大規模な設備投資資金、中流工程を支える加工インフラ、長期的な引取契約、そして操業までの長期の時間軸を組み合わせることで初めて成立します。豪州は自国の豊富な鉱物資源を基盤としつつ、国際的な政策金融と民間資本を連動させることで、西側諸国のクリーンエネルギーおよび先端産業を支える資源サプライチェーンの構築を着実に推し進めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)