ジョブズ最大最後の遺産、50億ドルの新社屋が間もなく着工

2013年04月21日 18:22

 アップルの創始者の一人であり、カリスマ実業家として日本でも多くの信奉者を持つ、故・スティーブ・ジョブズ。2011年に亡くなった後も尚、強大な影響力を持つ、IT時代の寵児。彼が遺したものは多く、今夏に発表されると噂のiPhone5Sや、その次のiPhone6などの開発にも彼の意向が大きく反映されているという。そんなジョブズ氏が、亡くなる直前に発表した、彼の最大最後の遺産とも言うべきアップル本社新社屋が今年6月に着工される予定だ。

 現在の社屋がCampus1と呼ばれていることから、新社屋は通称・Campus2と呼ばれているが、すでに発表されている完成予想図によると、宇宙船を彷彿とさせる斬新なフォルムから、Mothershipなどとも呼ばれているようだ。

 Campus1はカルフォルニア州のクパチーノ市に位置するが、新社屋もそこから1kmほど離れた場所に建設予定。昨年、近隣住民に対して配布された説明パンフレットや、これまでに明かされている情報によると、移転予定先の土地面積は176エーカー(約71万5000平方メートル)で、新社屋自体の敷地面積は15エーカー(約6万710平方メートル)、坪に直すと約18360坪。特注の曲面加工のガラス張りの開放的なリング状の建物で、ビル全体に自然光が行き渡るSolartubesを採用。また、屋上には70万平方フィートのソーラーパネルが設置されている。ドーナツ型の建物の内側と周辺には樹木6000本を植樹し、暑くなると自動的に窓が開く室温制御システムで環境にも配慮。建物は4つのセクションに分かれており、Campus2内で働く1万3000人のアップル従業員向けのレストランやフィットネスセンター、アメニティーショップなども置かれる予定だ。

 敷地内に現在通っている道路の一部はセキュリティのため閉鎖され、リング状のCampus2内部は一般には非公開とのこと。ただし、敷地の端に講堂が建設される予定で、今後の大きなイベントなどはそこで行なうことが発表されているので、完成以降の製品発表などのイベントはこのCampus2がメイン会場として利用されることになるのかもしれない。

 アップル関係者ならずとも、その完成にわくわくしてしまうが、着工間際のこの時期になって、若干計画に変更が行なわれるらしい。ジョブズ氏が計画を発表した2011年当初は、総工費30億ドル(約2955億円)で建造を予定されていたが、主にジョブズ氏特有の「こだわり」を加えていくうちに費用がかさみ、最終的には、倍近い50億ドル(4925億円)にまで跳ね上がった。今年完成予定の新ワールドトレードセンターの総工費が約2400億円というから、いかに豪華な建物かがよく分かる。

 幸い、ジョブズ氏のこだわりは、「セメントの床より石を混ぜたテラゾのようなもの」とか「天井も軽量な吸音タイルではなく、磨いたコンクリートに」とか、美術館や豪邸に採用されるような仕様に関するものが多く、たとえ変更しても大きな支障はなさそうなものばかり。そこで、アップルでは現在、当初2015年竣工だった予定を一年先延ばしにした上で、施工費を元々の予算金額近くにまでカットするよう調整を進めているという。

 それでも豪華な社屋には変わりはないが、アップルが創業時に製作したApple1からiPhoneやiPadにいたるまで、徹底的にデザインにこだわり続けたジョブズ氏の意向がそぎ落とされてしまうのは、仕方の無いこととはいえ、少し寂しくもある。(編集担当:藤原伊織)