今年で7回目を迎える「キッズデザイン賞」。過去6回の受賞作は累計で1067件にも達しており、一般消費者を対象に実施したアンケートにおいては7割以上の人がキッズデザインマークのついた商品を購入したいと回答しているなど、「キッズデザイン」という言葉の認知度は、日増しに高まっている。
その一方で、「キッズデザイン」というもの自体のイメージはどうか。恐らく、「乳幼児向け商品の使い勝手や安全性が考慮されたデザイン」といった印象を持っている人が多いのではないだろうか。せいぜいが、「子どもの安全・安心を考慮して設計された商品」という程度のものであろう。しかし実際には、より広義なものが「キッズデザイン」の目指すところとして掲げられている。
同協議会の会長であり、積水ハウス<1928>の会長兼CEOでもある和田勇会長によると、現代の「コミュニティーの崩壊」により、子どもを見守る機能が「世間」から失われてしまったことが、「キッズデザイン」を推進する大きな要因だという。「キッズデザイン」には、この失われたものを取り戻そうと、「子ども中心の世の中」「子どもを守ることをライフワークに」といった思いを形にすることが、根本の理念として存在している。結果、「キッズデザインの目指すもの」は、「子どもが安全かつ感性豊かに育つための社会環境、子どもを産み育てやすい社会環境を、デザインを通じて整備すること」となっており、その対象に「子供向け」「大人向け」の区別はなく、さらに「モノ」のほかに「施設」や「サービス」といったものも含まれている。
こうした「キッズデザイン」という考え方は、現在のところ日本のオリジナルな考え方だという。一方で、日本を始めとする先進国では少子化が進んでいるものの、世界の人口は増加を続けている。その為、「キッズデザイン」は国際的にも競争優位の価値のあるコンテンツだとして、政府も注力を始めている。具体的には、「キッズデザイン」というブランドクオリティを維持する為の「キッズデザインガイドライン」の策定が急ピッチで進められている。このガイドラインは、日本におけるブランドクオリティ維持の為だけではなく、ISO(国際標準化機構)への組み込みも視野に入れたものである。これまでの日本の技術の多くは、国内での価値提示しか行わずグローバル化を意識してこなかったために、結果的にガラパゴス化していた。こうした状況を打破すべく、国内でのガイドライン策定作業とほぼ同時進行で国際標準規格化への動きが進んでいる。さらに、「キッズデザイン」に力を入れている企業も年々増えつつあるとはいえ、自動車や医薬、食品、トイレタリー、アパレルといった「こども目線」であって欲しい業界の参加が少なく、まだ産業界を網羅するまでに至っていない。和田会長が「住宅業界でも、積水ハウスが熱心に取り組んできたから業界内に広がり始めた。そういう形で産業界全体のレベルが上がっていけば、キッズデザインはもっと豊かになり、その価値も上がる」と語るように、普及と価値向上は表裏一体であり、そこには大きなビジネスチャンスがある。そして、ガイドラインの策定、グローバル対応が想定通りに進めば、日本は高い国際競争力を持ったコンテンツを手にすることになるのである。
「キッズデザイン」に関し、最も優れたシンボリックな商品・サービスを掲げ、市場に価値提示をし続けてきた「キッズデザイン賞」。これまでは、経済産業大臣賞4本、少子化対策担当大臣賞2本、消費者担当大臣賞1本の計7本の大臣賞が設けられていたが、今年から、それらの頂点に立つ最優秀賞として、内閣総理大臣賞が新設された。さらに、ガイドラインを活用した取り組みとして、子どもの安全性向上にむけた世界初となる業界横断型の認証制度「CSD認証」も今年10月から開始するなど、今年はキッズデザインにとって大きな転機となる一年である。高い国際競争力に期待が持てるコンテンツであるだけに、その動向には注視すべきであろう。(編集担当:井畑学)