スマートフォンのカメラで画面に映し出した現実の映像に、オンライン上にある多彩な情報を重ね合わせることで、様々なコンテンツを閲覧したり、他のユーザーと共有したりできる「拡張現実(AR)」という技術が注目されている。
SNSやショップ販売、プロモーションなど、様々なビジネス展開がなされているが、そんなデジタルな利用方法だけでなく、なんともアナログな感じで「拡張現実」を味わわせてくれる映画が誕生した。
オランダ発の映画「App」は、大学で心理学を専攻する女子学生アンナがソーシャルメディアにはまり、「アイリス」という謎めいたアプリをダウンロードしてしまったことから、アンナが次々と不可解な出来事に追い込まれていくホラー・サスペンス仕立ての作品だ。
アイリスは勉強や人生相談にまで乗ってくれる、まさに「Siri」や「しゃべってコンシェル」の未来版ともいえるアプリ。アンナは最初、それを便利に使って楽しむが、なぜかアンナの周りでは謎の死亡事故がおこりはじめ、やがて彼女も、送信されてくる秘密の暗号に翻弄されていく、というストーリー。
これだけなら、とくに何の変哲もないホラー・サスペンス映画だが、この「App」の最大の特徴であり醍醐味は、映画を鑑賞中にスマホを「第2のスクリーンとして使う」というところにある。通常、映画鑑賞中の携帯電話はご法度。もしも、途中で鳴り出したりしたら顰蹙ものでしかない。しかしながら、この映画に限っては「携帯電話はお切りください」どころか「携帯電話でお楽しみください」なのだ。
具体的には、観客はあらかじめ専用の無料アプリをPlayストアやiTunesから自分のスマホにダウンロードしておくと、映画鑑賞中に主人公であるアンナに送られてくる暗号と同じ暗号などが観客のスマホにも送られてくるという仕組み。また、暗号のほか、映画の内容とシンクロした文字情報や特別な画像も送られてくるという。たとえば、部屋に時限爆弾が仕掛けられたシーンなどでは、観客のスマホに爆発までの残り時間が表示されたりという、サスペンスを盛り上げる拡張現実な演出が施されているらしい。
もちろん、スマホを利用しなくても楽しめるストーリーとなっているらしいが、どうせなら、この新しい試みに参加してみたいものだ。とはいえ、いくら映画館公認といえど、映画鑑賞中の通常のメールや電話の着信は迷惑なものであることに変わりはない。そのあたりは、どうクリアされるのだろうか。
ともあれ、これが成功して好評を得れば、新しい映画ビジネスのかたちが生まれるかもしれないと、業界の注目も集まっている。(編集担当:藤原伊織)