「ヤマハ・YSP・レーシング・チーム」、若手育成のために異例の体験走行会が開催

2013年05月14日 18:25

YSP-e

中須賀選手のYZF-R1にまたがり感触を確かめる若手選手(左が篠崎選手、右が野左根選手)

 5月7日、宮城県はスポーツランドSUGOにて、ヤマハ系の若手ライダーを対象にした体験走行会が開催された。このイベントは昨年のJSB1000クラスのシリーズチャンピオンである中須賀克行選手のマシン「YZF-R1」を使用したもので、2輪のレース界では異例のイベントといえる。

 なぜ、異例なのか。それはヤマハのトップチームである「ヤマハ・YSP・レーシング・チーム」が今年のレース参戦のために、中須賀選手と手掛けた最高峰のレーシングマシンをシーズン中にもかかわらず他チームの選手に試乗させたことだ。また、それぞれのチーム、ライダーについているスポンサーの垣根を越えた協力が実現した事もこれまでに例がないだろう。これだけで、若手ライダーには参加する意義が十分以上にあるが、その走行のために、実際にレースの現場で活躍するチームスタッフも全員が揃い、実際のレースさながらにマシンの整備などをおこなったというのだ。

 一昔前はレース人気が高く、メーカー各社も今よりも積極的にレース活動に力を注いでいたため、有望な若手ライダーは多くの先輩ライダーと共にレースの実績を積み重ね、また多様なマシンで経験することでセッティングのノウハウなどを蓄積、プロとしての道筋がきっちりと存在していた。また、多くのライバルがいたため、自分をアピールすること、さらにポジションを守るため、あらゆる面で負けないための行動を起こすことで、着実に成長していったという。しかし現在、若手の育成が大きな課題にはなってはいるが、ステップアップする構造が少ないのも確かだ。以前は125ccクラスからメーカーがレース参戦していた時期があり、125・250・500といったステップアップ構造があったが、現在はメーカー直系といわれるチームはJSB1000クラスにしかないのがほとんどだというのだ。若手ライダーはチャンスやライバル、チームが少ないないなどで、才能や熱意があったとしても、大きく成長することは難しいのが実情だろう。

 今回の業界の常識を覆す企画の裏には、前述のような現在のレース界には若手ライダーが活躍する場所が少なく、才能を持った若手ライダーを育成したいという中須賀選手やヤマハの強い意図が存在するようだ。

 このイベントに参加したのは、藤田拓哉選手(JSB1000/DOGFIGHT RACING・YAMAHA)、篠崎佐助選手(ST600/SP忠男レーシングチーム)、野左根航汰選手(JGP-2/ウエビッグチームノリックヤマハ)の3選手。サポートにはシリーズチャンピオンである中須賀選手を始め、アドバイザーを務める吉川和多留氏、「ヤマハ・YSP・レーシングチーム」のスタッフ、さらにはブリヂストン、KYBとテクニカルスポンサーのスタッフが一丸となり、最高の環境を提供した。

 走行当日は不安定な天候ではあったが、各ライダーは日本最高峰のチャンピオンマシンの感触に興奮を隠しきれない様子だった。周回を重ねながらマシンの感触を存分に感じ取ると、鋭い感性を発揮し、徐々にラップタイムを上げて行く。「シーズン中ということもあり転倒をしてはならない意識はありましたが、それ以上にチャンピオンマシンを感じることに集中して走りました。なかでも車体は自分のマシンとまったく異なる方向性のセッティングで驚いたのですが、マシンを作っていく上での新しい発見になりました」と藤田拓哉選手。また篠崎佐助選手は、「今回初めてとなる1000ccのマシンでしたが、僕が乗っている600ccのマシンと比べ、想像以上に難しいマシンであることに驚くと同時に、難しいバイクだからこそ速い、難しいバイクを乗りこなせるからこそ速いということを痛感させられました」と語り、さらに野左根航汰選手は「僕にはMotoGPクラスで活躍するという夢がありますが、この経験もジャンプアップのために使っていきたいと思います」と豊富を語った。全てのセッションを終えた3人のライダーは、セッティングの方法や、積極的に中須賀選手やスタッフと会話することで成長するためのヒントをつかんだようで、今後のレースに大きな影響を与えたようだ。

 若手ライダーを育成するために始まったボーダーレスなイベント。そこには将来のレース界を担う若手ライダーたちの姿が映し出されていた。今回、国内レース市場に一石を投じたことで、今後のレース界の発展、そしてライダーの活躍のために立ち上がった男たちの夢が加速度を増すことは間違いないだろう。(編集担当:北尾準)