急増する在宅テレワークの落とし穴

2013年05月16日 19:31

 ここ数年、在宅型テレワークを導入する企業が急増している。国土交通省が取りまとめた「平成24年度テレワーク人口実態調査」によると、2012年の在宅型テレワーカー(自宅で情報通信機器を利用できる環境において仕事を週1分以上行っている者)のうち、会社員や契約社員など企業に雇用されている者は前年の約320万人対してほぼ倍の約710万人に上る。高機能化したスマートフォンやタブレット端末などの情報通信機器が急速に普及していることに加え、情報セキュリティ対策の整備、企業のワーク・ライフ・バランス(WLB)の取り組みが進んでいることが背景にあると言えるだろう。もともとテレワークは、企業改革という点からは生産性・効率性の向上、組織のプロ集団化、優秀な人材の確保、コスト削減などの効果が期待されてきた。政府もWLBの向上や都市部への人口集中の緩和などを目指して、テレワーク人口に係る数値目標が掲げるなど、普及を推進してきた経緯がある。

 しかし、その一方で、在宅型テレワークが労働法の観点から問題をはらんでいることについては、十分に周知されてきたとは言い難い。本来、法的には、企業に雇用される労働者は、労働条件の最低基準を定める労働基準法や、業務災害が生じた時に保険給付する労災保険法が適用されることになっている。ところが、これらの法律は在宅テレワーカーに適用されるとは限らない。

労働基準法や労災保険法では、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事業に使用される者で賃金を支払われる者と定義しているが、在宅テレワーカーが、この定義に該当するか否かは、あくまでも実態で判断されることになっているからだ。社内的に社員と位置づけていても、「労働者性」が認定されなければ、仕事中に負傷しても労災保険から保険給付を受けることはできないことになる。

 厚労省の判断基準である「在宅勤務者についての労働者性の判断について」では、「指揮監督下の労働」に該当するか否かが重視されている。具体的な判断基準としては、1.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、2.業務遂行上の指揮監督の有無、3.拘束性の有無、4.代替性の有無が挙げられる。

 在宅テレワーカーの場合、特に「2」に関して、会社が業務の具体的内容と遂行方法を指示し、業務の進捗状況を本人からの報告等により把握、管理していることが重要であろう。「3」についても勤務時間が定められ、本人の自主管理と報告により「使用者」が管理していることが明らかにされていることがポイントとなる。さらに、在宅テレワーカーが自宅で業務に使用するパソコンなどの機械や器具については、会社から無償貸与していることも「労働者性」の判断を補強する要素になるとしている。

 厚労省「平成23年における労働災害発生状況(確定)」によると、業種別・業務上「死傷災害の構成割合」は、在宅テレワークのほとんどが該当するであろう「その他」(サービス業、事務系職種等)が48,638人(全産業に占める割合42.6%)と最も多く、製造業の24,395人(同21.4%)、建設業の22,675人(同19.9%)を上回る。今後、在宅テレワーカーはますます増加することが予想される。企業としては、労災事故が発生してから慌てることのないよう、こうした法的な観点からの整備は不可欠となるだろう。                         (編集担当:坪義生)