【主要企業決算】円滑化法廃止の影響はソフトランディングできそうだが貸出競争は激化する

2013年08月12日 21:42

 地方銀行主要6行(横浜銀行<8332>、千葉銀行<8331>、静岡銀行<8355>、常陽銀行<8333>、福岡銀行や熊本銀行が属するふくおかFG<8354>、京都銀行<8369>)の2013年度4~6月期決算は、前年同期比では静岡銀行の純利益を除き増収増益で、収益性が大きく改善している。

 横浜銀行の経常収益は前年同期比0.7%増、経常利益は34.9%増、四半期純利益は37.7%増。経常利益1.6%減の935億円、純利益1.5%減の545億円の通期業績見通しも、前期と同じ11円の通期配当見込みも変えていない。

 千葉銀行の経常収益は前年同期比2.2%増、経常利益は44.0%増、四半期純利益は42.7%増。経常利益1.7%増の740億円、当期純利益1.9%増の450億円の通期業績見通しも、前期と同じ12円の通期配当見込みも変えていない。

 静岡銀行の経常収益は前年同期比30.6%増、経常利益は53.0%増、四半期純利益は15.4%減。経常収益9.7%増の2230億円、経常利益0.9%増の720億円、当期純利益21.0%減の450億円の通期業績見通しも、前期と同じ15円の通期配当見込みも変えていない。

 常陽銀行の経常収益は前年同期比24.5%増、経常利益は53.9%増、四半期純利益は35.7%増。経常利益5.6%増の380億円、当期純利益5.6%増の240億円の通期業績見通しも、前期より50銭増配の9円の通期配当見込みも変えていない。

 ふくおかFGの経常収益は前年同期比4.9%増、経常利益は43.8%増、四半期純利益は47.6%増。通期業績見通しの経常利益は45億円上方修正して23.7%減の525億円、当期純利益は60億円上方修正して2.9%増の330億円とし、通期配当見込みも1円上方修正し前期から1円増配の11円とした。

 京都銀行の経常収益は前年同期比4.2%増、経常利益は29.0%増、四半期純利益は32.8%増。経常利益20.6%減の223億円、当期純利益22.6%増の136億円の通期業績見通しも、前期と同じ10円の通期配当見込みも変えていない。

 銀行の財務の健全性を示すのは「自己資本比率」と「不良債権比率」。国際統一基準の連結自己資本比率は3月末と比べ、横浜銀行は13.99%から13.63%に減少、千葉銀行は14.05%から14.00%に減少、静岡銀行は17.46%から16.71%に減少、常陽銀行は12.81%から13.36%に増加(国内基準)、ふくおかFGはまだ発表せず、京都銀行は13.26%から13.55%に増加(国内基準)している。減っている銀行も含め地銀上位行だけに全行が2ケタで健全だが、不良債権比率のほうはどうだろうか。

 3月末と比較した金融再生法開示基準の不良債権残高の増減と、不良債権残高が総与信額に占める比率(増減)は、横浜銀行が14億円増加して2.2%(増減なし)、千葉銀行が65億円減少して2.17%(-0.11ポイント)、静岡銀行が57億円減少して2.83%(-0.07ポイント)、常陽銀行が47億円減少して2.89%(-0.11ポイント)、ふくおかFGが53億円減少して2.77%(-0.04ポイント)、京都銀行が30億円減少して3.34%(-0.03ポイント)となっている。横浜銀行以外は不良債権が減少し、財務の健全性が増している。

 地銀にとって大きな試練になると思われたのが3月末の「中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)」の期限切れだったが、不良債権や貸倒の急増はなく、不良債権残高が唯一増えている横浜銀行も貸出残高全体から見れば微増で、京都銀行以外は2%台の低位にとどまっている。少なくとも自己資本比率が大きく傷つくような事態にはなっていない。

 今後どうなるかはまだ予断を許さないが、何とかソフトランディングできそうな情勢になっている。やはり、期限切れ直後の4月4日に決まった日銀の「異次元金融緩和」によるマネー供給が効いている。円滑化法適用対象企業の資金繰りには今まで通りに対応できると思われる。しかも、国内融資だけに専念すれば「バーゼル3」は無関係でいられる。

 しかし、地銀の経営は決して安泰とは言えない。この先、金利が上昇して国債価格が下落すると、貸出から得られる資本収益の不振を国債売却益でカバーする「国債頼み」の収益構造が崩されるだけではない。日銀が異次元金融緩和で国債の買い入れと引き換えにリスクマネーを供給し続けているために今後、低金利の貸出競争の激化も予想される。その相手はメガバンクの場合もあれば、同じ地域や隣接地域の地銀や信金の場合もあるが、ビジネスモデルや経営計画や安全性は及第点がつくものの業績は可もなく不可もなしという程度の貸出先でも激しい奪いあいになる。先回りして優良貸出先を確保しておこうと地銀は自治体と組んでベンチャーファンドなどに関わって制度融資などで食い込もうとしているが、うまくいっているとは言いがたい。

 それは「失われた20年」で地方経済の沈滞が続き、保守的な体質が染みついたためでもある。地域へのリスクマネーの供給を担いたいのなら、業務改革、組織改革、人材の入れ替えも含めてリスクを取りやすい態勢を整えることが先決問題。5月に自民党の日本経済再生本部が地域経済再生のためには地銀の再編が必要という中間提言を行っていたが、メガバンクのような大規模な海外貸出も大胆な国債離れも行えない地銀業界は、そんな必要にも迫られるだろう。(編集担当:寺尾淳)