仕事を終えて、帰宅して愛犬が座っているソファーに並んで座り、思わず疲れであくびをする。すると隣の愛犬もあくびをする。「あれ? 犬ももらいあくびかな?」と思ったことのある人も多いだろう。
東京大学は、見知らぬ人のあくびよりも飼い主のあくびの方がイヌに伝染しやすいことを明らかにしたと発表した。
人間は、見知らぬ人のあくびよりも親しい人のあくびを見たときの方が、より伝染しやすいことが知られている。伝染性のあくびとは、他者のあくびを見たり聞いたりした後に、それを見た人にもあくびが生じることをいう。これは他者の感情を理解したり解釈する能力に関係すると考えられていることから、とくにヒトや動物の「共感性」を研究する科学者たちの興味を集めてきた。これまでに、ヒト、チンパンジー、ボノボ、ヒヒを含む霊長類では、他者のあくびが伝染することがわかってきた。
近年は、あくびの伝染に関する研究がイヌを対象にして進められるようになってきている。それは、現代のイヌは人間と暮らしを共にしており、ヒトとの異種間の共感能力を調べるためのモデルとして最適な動物とみなされているからだという。しかし、イヌには伝染性のあくびが生じるのか生じないのか、それは「共感性」から来るものか、それとも単なるストレス反応にすぎないのかという点については、十分に検証されていなかった。
今回、テレサ ロメロ研究員らの研究グループは、一般家庭で暮らすイヌ25匹とその飼い主を対象に実験を行って伝染性のあくびがイヌにおいてもみられること、さらにその行動が単なる不安やストレス反応ではなく(イヌは不安を感じたときにあくびをする傾向がある)、共感を示す行動であることを明らかにした。
実験では、心拍計を装着したイヌに対し、飼い主と見知らぬ人がそれぞれあくびのふりをして、イヌにどのような変化がみられるかという点について調べた。それによると、人があくびの動作を見せることによって、イヌもあくびが誘発されることが改めて確認されたという。さらに、見知らぬ人のあくびを見たときよりも、飼い主のあくびを見たときに、より多くイヌにあくびが生じることが明らかになった。これは、イヌとヒトの感情的な結びつきが伝染性のあくびの生起に重要な役割を果たしていることを示唆しているという。さらに、心拍計から得られたデータでは、飼い主のあくびを見ている場合と見知らぬ人のあくびを見ている場合とでは、イヌの心拍変動の数値に差がないことがわかった。これはイヌの不安やストレスレベルがあくびの動作を見せている人が飼い主か見知らぬ人かによって変化しないことを示していて、伝染性のあくびがイヌの覚醒状態の差によって生じるというよりも、イヌとヒトの共感レベルの差によって大きく影響されることを示唆している。
この研究で示唆されるように伝染性のあくびがイヌの共感能力に関与しているとすれば、他者の感情を適切に処理する能力が求められる作業犬としての適性を判断する際に、人からイヌにうつるあくびが役に立つ可能性がある。研究グループは今後、イヌの共感能力に犬種差や個体差があるのかどうかという問題に取り組んでいくという。(編集担当:久保田雄城)