安倍政権こそ「分厚い中間層づくり」を

2013年10月26日 13:27

EN-a_009

安倍晋三総理はデフレ下で「賃金が物価以上に下がってきた問題がある」と労働者に厳しい状況が生まれてしまったことを認めた。

 安倍政権がめざす脱デフレ、企業の収益力アップとそこからの設備投資や雇用の拡大、賃金アップ、そして消費拡大へとつづく経済の好循環。国民生活に豊かさを取り戻すために、結果として目標にすべきものはなにか。国民生活においては「分厚い中間層づくり」ではないのか。

 「正規労働者になりたいけれども、なれない若者」「正規労働者になったけれど、職場店舗で働く仲間のすべてがパート労働者という飲食店」。この状況は見過ごせない問題だ。労働環境は1997年をピークに悪化を続け、この15年間にサラリーマン所得は年平均70万円減少した。

 一方で、非正規労働者が増加の一途。24日の参議院予算委員会で非正規労働者の数は2000万人を超え、労働者全体の38.2%を占めるまでになったことが政府答弁で示された。3人にひとりではなく、5人に2人まで非正規労働という異常な事態を迎えようとしている。総務省は「男女とも非正規雇用の比率が上昇傾向」と推移を注視する。

 アベノミクスで労働者の「所得の減少」「雇用の不安定」が本当に改善されるのか。デフレ脱却の向こうに大企業の内部留保の拡大、一方で非正規労働者の増加。正社員と非正規労働者の所得格差の拡大など、社会構造の歪みが大きくなるのではと懸念される。そうした懸念材料を払拭する担保がみえない。なので、常に『働く側』の視点で規制緩和の動向、経済政策効果を検証していくことが必要だ。

 これまでの経緯では、所得をのみをみても1997年の消費税アップなどで一端落ち込んだものの、企業収益は持ち直し、大企業に限っては内部留保が170兆円増加、役員報酬は1人200万円増加(年収1700万円に)。株主配当も7兆円増加した。一方、労働者の賃金は年平均で50万円下がった。日本共産党の小池晃参議院議員は「これが実態だ」と指摘する。

 経営者は景気回復で生じた事業収益を設備投資や経営危機に備えた内部留保にまわすとともに、経営者自身の身分を保つため、株主配当に目配りする傾向が強い。一方、従業員とその家族への関心を失っていった。この15年はそうした15年であったのかもしれない。

 安倍晋三総理はデフレ下で「賃金が物価以上に下がってきた問題がある」と労働者に厳しい状況が生まれてしまったことを認めた。「そのことに反省しながら、景気回復のタイムラグを短縮し賃金に反映するよう経営者側に要請していく」とした。

 小池参議院議員がロイター調査を例に「復興法人特別税を廃止した場合に、そのキャッシュフローを何にまわすかとの問いに、社員の賃金に回すとしたのは5%、雇用拡大も5%にとどまり、最も多かったのは内部留保だった」と指摘。賃金への反映の難しさを提示した。

 ただ、安倍総理は「政労使の会議でも、われわれとしてやるべきことはやっているのでしっかりと対応してほしい旨の発言はしている」とし「内部留保も含めて、わたしからも経営者側にお願いをしていきたい」と踏み込んで賃金アップを要請していくと約した。ある種、画期的な国会答弁だった。経団連に不利な話でも言うべきことは強く言える政府であれと書いてきた筆者にとっては「スカッとする明快な答弁」と評したい。実効が伴えば、の話だが。

 そして賃金低下の要因にもなっている非正規労働者の増加を抑制するための方法を考えなければならない。非正規労働の半数近くが正規労働を希望しながら正規になれないでいる人たちという。

 企業にとって、ローコストに抑えられる非正規、さらに雇用調整にはもってこいの労働力でもあるため、非正規抑制には企業側が非正規を活用してもメリットの少ない環境をつくることが必要だ。正規社員と実質変わらない労働内容であれば、正社員とほぼ同様の待遇で労働報酬を与え、福利厚生についても一定の条件下に正規社員なみの待遇を検討させるよう義務付けるべきだろう。

 非正規を活用しても正社員と大差ないコストがかかるとなれば、経営者は正規採用を考え、人材採用効果を踏まえた人的経営戦略を立てていくようになる。

 個人プレーの成果主義的評価でなく、チームプレーでチーム全体としての成果を見るほうが企業業績はあがる。経営者の話だが「営業社員が10人いれば、3人は売り上げに大きく貢献、5人はそうでもないがプラスに貢献。2人は売り上げには貢献しているといえないが、チームの潤滑油的役割を果たしてくれるので、チーム全体としてまとまりができ、結果的に売り上げ増に貢献しているので、必要な人材なのだ」という。社員間に温かみを感じる社風も生まれてこよう。

 社民党や共産党は非正規労働者の時給を1000円にすべきというが、1日8時間で月22日間働いても17万6000円にしかならない。だとすれば、安倍政権も、時給1000円くらいの最低賃金は早期に実現すべきだろう。脱デフレで最も必要なのは低所得者層の底上げと個々の所得をあげ、消費を伸ばしていくことだ。安倍政権こそ『分厚い中間層づくり』を目標にして頂きたいと願う。(編集担当:森高龍二)