A級戦犯分祀問題 外交課題として国会論議を

2014年01月18日 19:17

 前原誠司元外務大臣が民放番組で安倍晋三総理の靖国神社参拝に関連し、日韓・日中間で常に外交問題になる総理・閣僚の靖国参拝に「何らかの形でA級戦犯を分祀し、外交問題化すべきでない」との考えを示した。外交トップ経験者の発言は重い。中国や韓国との外交に先頭を切ってきた前原元外相の両国の認識を踏まえての発言と受け止めたい。

 一方、「A級戦犯を分祀してもB級やC級の戦犯に言及し、中国や韓国の対日姿勢が変わることはない」との見方や「前原元外相の発想は甘い」など、A級戦犯を分祀しても変わらないとの意見もある。

 加えて、靖国神社は宗教法人であり、A級戦犯の分祀はできないと靖国神社が主張すれば、靖国神社が自主的に分祀を行わない限り、政治が靖国神社に分祀を求めるのは「政教分離」の原則からできることではない。行えば政治介入になるとの意見もある。

 最もらしい指摘のように見えるが、実は「そうなのか」と疑いたくなるのは筆者だけか。問題は国内だけでなく、外交問題になっていることは誰の目にも明らかな事実だ。

 宗教法人の言行(A級戦犯合祀)が国益に影響する外交問題になっている以上、解決に向けては政治が適切な対応をすることは国民生活の安定や国益を確保する国の責任として当然のことだ。

 また、A級戦犯の合祀以来、昭和天皇は靖国神社への参拝をなされなくなり、参拝をなされないままに崩御(ほうぎょ)された。合祀を是としておられなかったからだろうと推測することは容易だ。現行の天皇も昭和天皇のご意思を尊重されてか、ご自身のご判断もあるのあろうか、靖国神社参拝は控えておられる。

 そのことが、靖国神社に祀られている戦死者にとってどのように映っているのか。A級戦犯の遺族の方々はこの問題に対してどのような考えをお持ちなのか。お伺いできる機会があればお伺いしたい。

 また、靖国神社はA級戦犯を合祀し続けることで日中・日韓外交に国益を損ねる危険についてどうお考えなのだろう。

 昨年12月26日の安倍総理の靖国神社参拝で、当日予定されていた日中友好議員連盟(超党派の国会議員で構成)と劉延東中国副首相との会見がキャンセルされた。A級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝は過去の歴史への反省に疑問を持たせるとともに、国民感情を踏みにじるものだとの批判が中国、韓国から相次いだ。

 昨年10月来日したケリー米国務長官、ヘーゲル米国防長官が靖国神社ではなく、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れて献花した意味を重く受け止めるべきとの指摘もある。

 こうした経緯を踏まえ、A級戦犯の分祀問題は外交課題として位置づけた認識とともに、国会での議論こそ大事であり、国民を代表する国会の場で、一定の結論を出したうえで、国家の意思としての対応こそが求められよう。

 国会で審議を尽くして出された結論が分祀すべきとのものであれば、国家の意思として靖国神社に分祀を求めたとしても、不当な政治介入とはいえないだろう。一宗教法人と国益を天秤にかけることはできない。

 A級戦犯の分祀を行えば、中国や韓国は更なる要求をし、さらに日本が譲歩し、竹島や尖閣での姿勢が強硬になる危険があるとの指摘もある。しかし、両国国民への配慮や日本の外交姿勢に国際社会は理解を示すだろう。外交力を高めるとはそういうものではないのか。前原元外相のA級戦犯分祀提起は国会の場でも外交課題として活発に行って頂くことを期待したい。それは、まさに日本の歴史認識を再確認することにつながるとともに、歴史認識を深めることにもなろう。(編集担当:森高龍二)