NHKの籾井勝人会長は7日の参院総務委員会で会長就任時の記者会見での発言について「会長としての発言と個人の発言を整理仕切れないまま、発言してしまい誠に申し訳ございません」と頭を下げた。
そして「個人的見解を述べた部分については全て取り消したい」と自身の発言を撤回した。では、具体的に何を撤回したのか。
それは(1)慰安婦に関する発言(2)特定秘密保護法に関する発言(3)靖国参拝(4)番組編集権への発言(5)国際放送に関する発言だとした。
歴史認識、さらに国民の知る権利や報道の自由・その前提となる取材の自由、国論を2分する中で強行採決により成立した特定秘密保護法。その法施行前の準備が進む中での公共放送のトップの認識、番組編集権や国際放送に関する認識。
これらは会長ポストに就く人材が、どのような認識とスタンスで職員に指示し、報道機関としての取材力を高め、権力に切り込み、国民の視点で報道していく姿勢を有しているのかを知るうえで、最も分かりやすいテーマでもあった。
ゆえに、回答に関心が集まった。問題を指摘され「就任直後で不慣れだった。会長発言、個人発言を整理仕切れないまま発言してしまった」。ゆえに「個人発言の部分はすべて取り消したい」と国会で話す。会長としての記者会見であろうが、なかろうが、公の場で発言すれば、やはり会長の発言として発信されるのは自然なことと認識したほうがよいだろう。
商業ジャーナリズムの民放でさえ、報道においては中立・公正、真実を追究する姿勢を崩せば報道内容に信頼を失うことは言うまでのない。公共放送としてのNHKはより高いレベルでジャーナリズムとしての倫理観、バランス感覚、客観性、真実を追究し、真実のみを国民に伝える力量と勇気が常に求められている。受信料の根拠の大きな部分でもあろう。
籾井会長は自身の発言に対し「視聴者の皆様から厳しい意見、海外の様々な反響が寄せられていることを承知している」と語り「今後は、公共放送トップの自覚を持ち、放送法に則し、表現の自由を確保しながら不偏不党、公平公正を守り、公共放送の使命を果たしていく所存です。自由闊達な経営というのもわたしの信条であり、職員やスタッフとしっかりコミュニケーションをとりながら、これまで以上に信頼を得られるNHKを目指し、全身全霊で努めてまいる所存」と文面を見ながら社民党の又市征治議員に答えた。
NHK経営委員会の浜田健一郎委員長は「経営委員会としては、NHKの会長任命という職責の重さを深く受け止め、昨年7月に指名部会を設置して半年間にわたって審議してきた。しかし、この度の籾井会長の発言は公共放送トップとしての立場を軽んじた行為であると言わざるを得ず、経営委員長としては会長に厳しく自覚を促し、説明責任を果たすとともに、事態の収拾を速やかに行うよう要請した」と釈明した。
一方で、浜田委員長は百田=ひゃくた=尚樹氏と長谷川三千子氏の言動について「経営委員の職務として行われるものではない。個人の思想・信条に基づく発言は妨げられるものではないと考えている」と「現時点での経営委員の言動が経営委員会の審議に影響を及ぼしてはいない」と資質に問題があるかないかに言及せずに、委員であっても問題は起きていない旨を主張した。
浜田委員長は「経営委員会は様々な経験、知識、考え方を持つ多様な委員の合議体で、委員間の真摯な議論により放送の不偏不党が維持されるよう委員長として努めていく」と公平中立、不偏不党の姿勢を自身が先頭に立って、委員長として堅持する姿勢をうかがわせた。
又市議員は「NHKの不偏不党、公正中立の姿勢に疑念が抱かれることが起こっているという、その危機感をしっかり持って頂きたい。集中審議でしっかり議論していきたい」とした。
わたしは個人的な考え方にこそ、バランス感覚や客観性、報道機関に身を置く報道人としての資質が重視されるべきだろうと感じている。
NHK会長、言動が指摘される経営委員ともに、就任を続けるのであれば、集中審議の場で国民の疑念や懸念を払拭するよう、会長の発言として、また、経営委員の発言として、国会議員の質問に応じていただきたい。
個人の発言であり、取り消したいとした発言でも領土問題に「明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。政府が右ということを左というわけにはいかない」などと答えられると、『冗談じゃない』といわざるを得ない。まさに不偏不党、独自に取材の積み重ねから得た確証に基づくNHKの見解を示して頂かないといけない。公共放送に期待するのは独自の視点での切り込みだ。
国際放送においても公的見解と世論の動向を正しく伝える。ニュースは事実を客観的に、真実を伝える。でなければNHKの存在価値は消失しよう。
新藤義孝総務大臣は「会長として発言すべき場で個人の見解を述べ、反省し、謝罪し、個人の発言をすべて撤回する。放送法を遵守して公共放送のトップとしての自分の職責を全うしていくと話しているので、何人の圧力にも屈しないで自由に表現し、放送し、公共放送としての役割を全うすると期待している」と7日の参院総務委員会で語った。
公共放送としての役割をまっとうし、スタートラインの仕切りを明確にするためにも、国会での集中審議には籾井会長だけでなく、言動が問題になっている経営委員の2人(百田氏と長谷川氏)も出席し、国民に問題がないというところを是非、示して頂きたい。公共放送の経営に携わるものとして当然の責任だろう。(編集担当:森高龍二)