14年1月~3月にかけて放送されたドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ系)。児童養護施設を舞台に、懸命に生きる子供たちの姿を描いた作品だが、全国児童養護施設協議会や「赤ちゃんポスト」で知られる熊本の慈恵病院などが「人権侵害のおそれがある」「施設の実態とかけ離れている」などと抗議していた。日テレは後半の番組内容を改善。番組は最終回まで放送された。
放送終了後、放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送と青少年に関する委員会」では、この番組を「審議の対象としない」と判断。なぜ、問題があるとされた番組を審議しないのか。汐見稔幸委員長は異例の「委員長コメント」を公表した。
コメントによると、主人公のあだ名や施設長の暴力的なふるまいなどの演出は、ドラマの効果上「あった方がよい場合と、ドラマであっても必要があるとは思えない場合がある」。そこに公共放送であるということや、放送時間帯などの問題が付け加わり、「いい悪いの境目をどう引くか」は非常に難しい。
「明日ママ」には、施設の描き方が「当事者をあまりに無視している」との批判が多く寄せられた。一方で「こうした世界が実際にあり、恵まれない条件でも必死に生きている子供たちがいるということを、このドラマで初めて詳しく知った」という意見もあり、BPOとしては最終回まで見た上で判断することにした。
委員会では、番組のストーリーが後半にかけて変化していったと評価。主人公のあだ名など「解決されない問題」は残ったが、「全体としては次第に視聴者に受容される内容になっていった」。施設で暮らす子供たちの「生き様の問題」に焦点を当てた意義も評価し、審議の対象から外すことにしたという。
だが委員長はコメントの最後で、ドラマの内容から「心の傷を深めたり再発した可能性のある子どもがいる」と改めて強調。放送局側には関係者に対し、「あらためて誠意ある態度を示すこと」を求めた。異例の「委員長コメント」を出すことになった「その含意を汲み取ってほしい」としている。(編集担当:北条かや)