2012年9月、品川区の区立小中一貫校に通う12歳の男子生徒が自宅で自殺した。それから1年半。被害を受けた生徒の両親が、区役所、担任、生徒と保護者らに対して約1億円の損害賠償を求めた裁判が、4月16日から始まった。両親はいじめ行為の重大性、犯罪であることを世の中に伝えると会見で述べている。
被害生徒が殴る蹴るといった暴力を日常的に振るわれていたこと、脅迫されたこと、クラスの多くの生徒から言葉の暴力を受けていたこと、同学年の多くの生徒がそのいじめの存在を知っていたこと、傍観者のままであったことなど、非常に悲しい事件であった。日本中が大騒ぎになった大津のいじめ自殺から1年もたたずになぜこんな悲劇が起こってしまったのか、と思ってしまう。
事件後、いじめた側も児童相談所送致などの制裁を受け、区役所も有識者を交えた調査委員会による調査がされ、「いじめ等調査・対策報告書」がまとめられ、議会ではいじめ解決に関する決議が行われたようだ。
調査委員会の調査に参加した遺族であったが、今回司法に訴えた。裁判では品川区は「因果関係を認めない」との主張をしているそうだが、報告書では「いじめが自殺の誘因であった」ことが認められている。さて、誘因と原因はどう違うのか。
誘因とは「ある事柄を誘い出す原因」と定義される。他方、原因とは「ある物事や、ある状態・変化を引き起こすもとになること。また、その事柄」と定義される。いじめが自殺の直接的原因であったとみるか、自殺の原因ではないがいじめは誘因の1つだったとみるか、その違いと解釈できる。いじめが自殺という結果を引き起こした主な原因かどうか、つまり、因果関係の強さ・度合が争点だということだ。
この裁判についてはその推移を見守りたいが、この裁判の行方にかかわらず、区役所は対策を粛々と実行してもらいたい。報告書では、第一に教育委員会事務局に「いじめ問題対策チーム」を設置し、いじめの原因や背景について分析すること、第二に専門技術を持つスクールソーシャルワーカーの設置すること、第三に児童生徒へのアンケートによる学級アセスメントの実施、第四に学校検証委員会の設置、第五に目安箱とホットラインの設置が提言されている。こうした対策が形骸化しないよう推移を見守りたい。(編集担当:久保田雄城)