安倍晋三首相は、政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議との合同会議で「時間でなく、成果で評価される新たな仕組みを検討してほしい」と述べたと報道されている。政府は6月にまとめる新たな成長戦略に盛り込む方針だそうだ。これに対して労働側から「柔軟な働き方はいいが本当の目的はコスト削減という経済界の意向を受けているのではないか」「成果主義はこれまで成功してきていない」との批判もみられる。
この会議では、長谷川委員(武田薬品工業<4502>社長)が「個人と企業の成長のための新たな働き方」と題した資料を提出した。これをもとに議論が行われたのだが、この資料では働き過ぎ防止に真剣に取り組むという問題意識から、個人の意欲と能力を最大限に活用するために、新たな労働時間制度が必要であるということが提起された。ひとつが「労働時間上限要件型」という形。これは1年間で働く時間などをあらかじめ労使で決める。もうひとつが「高収入・ハイパフォーマー型」。年収1千万以上の高い能力を持ち、自律的かつ創造的に働きたい社員が、時間と関係なく仕事を進められるというものだ。社員の報酬は働いた時間に関係なく、仕事の達成度や成果に応じて払う仕組みになるそうだ。
長谷川委員は説明の際に3つのポイントをあげ強調する。「個人の希望に基づくこと」「労働時間管理ではなく、成果ベースの労働管理であること」、「制度の大枠は労使合意にて決定をするという、労使自治である」と。
この説明に対して、榊原委員(東レ<3402>代表取締役)からは「働く人が自らのニーズに合わせて、働く時間や場所を選べる。しかも、成果に応じた報酬を得られる制度で、子育てや介護をしながらキャリアアップを求める女性の活躍推進のためにも、極めて有効である」との発言があった。働く人には様々なニーズがあり、これらのニーズを現行の制度が対応できていないのではないか、という問題意識である。
確かに労働基本法などを見ても、働き方が多様化している中、対応できているのかというと疑問が残る。だから新しい制度も必要かもしれない。しかし、長谷川委員は「時間ではなく、成果で評価されるペイ・フォー・パフォーマンス、そういう考え方・やり方をこれからは企業も導入していかなければいけない」とコメントしている。しかし「失敗だった」と烙印を押されている企業の「成果主義」について考察があってもよかったのではないかと思うのは筆者だけではないだろう。(編集担当:久保田雄城)