先月の東京新聞朝刊の一面に、ショッキングな見出しが躍った。「自衛隊と教育 接近」-自衛隊と教育という緊張を呼ぶ言葉に、すぐさま飛びついた人も多かっただろう。この記事は東京都が実施している防災教育の場に自衛隊を選んだ高校が出てきたことを懸念とともに紹介していた。
2013年7月、西東京市の田無工業高校の生徒は、朝霞駐屯地(東京都練馬区)で自衛官の号令の下、「宿泊防災訓練」を行った。田無工業高校は都が指定する防災教育推進校15校の1つだ。先立つ11年11月に、当時の石原新太郎都知事は都の教育再生をテーマとした会議で、「兵役か警察か消防に2年間ぐらい強制的に行かせてはどうだ」と述べた。この発言の後、それまで東京消防庁だけだった防災訓練先に自衛隊と日本赤十字が加わった。
今年2月にも、同校は防衛庁との連携による防災訓練を実施している。今回は夢の島スポーツ施設(江東区)での実施。同校の2年生全員155名を対象に行われた。このように一度のみならず行われている田無工業高校の「防災訓練」だが、都教育庁の説明ではこの自衛隊での防災訓練には問題がある。応急手当や搬送法を学ぶ上級救命講習は、東京消防庁で訓練を受けないと取ることが出来ないのだ。自衛隊での訓練では応急手当を学ぶという一般的な意味での防災訓練は出来ないということになる。
それでは、石原元都知事をはじめとした自衛隊での防災訓練を推進した人々は何を目的として自衛隊を訓練先に加えたのだろうか。それは「規律」だ。自衛隊は、これまでも企業の新入社員研修などを「体験入隊」という形で行ってきた。その場で新入社員が学ぶのが「規律」だ。自衛隊が高校生を対象に行った訓練でも「躾」「着隊訓練」といったプログラムが用意され、生徒たちはこの規律を防災とともに学んだと言える。
自衛隊と教育というセンシティブな話題に対しては「賛成か反対か」という二元論で語られやすい。しかし、自衛隊が災害の現場で真っ先に活動を行うプロ中のプロであることは事実である。さらに、規律を学ぶという点でも得るものは多いだろう。必要なのは自衛隊と教育の連携を「許すか否か」の議論ではなく「どこまで許すか」そして必要以上に自衛隊と教育が接近しすぎないよう「どうストッパーを用意しておくか」ではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)