大物副議長フィッシャーの登場でFRBは変わるか

2014年06月22日 12:09

 米上院は6月12日、連邦準備制度理事会(FRB)副議長にフィッシャー理事を起用する人事を承認した。フィッシャー氏は国際通貨基金(IMF)筆頭副専務理事や米金融大手シティグループ副会長などを経て、イスラエル中央銀行総裁を8年間務めた。それだけではない。同氏はバーナンキ前FRB議長の博士論文の指導教授でもあった。その他にもマリオ・ドラギ欧州中央銀行総裁など、フィッシャー副議長の薫陶を受けた学者は大勢いる。いわば国際金融の重鎮中の重鎮だ。そんな大物がいよいよ副議長として金融政策の表舞台に登場する。
 
 現在、FRBが置かれている状況はこれまでになく複雑だ。10月にも量的緩和政策を終えるのは既定路線となっているが、住宅需要の鈍化などで連邦公開市場委員会(FOMC)は足元の米成長率見通しをやや引き下げているとの見方が優勢だ。インフレ率も低調で金融引き締めには時期尚早との意見もある。FOMCの議決権を持つメンバーには早期の金融引き締めを支持する筋金入りの「タカ派」が複数いると言われており、意見の集約は一筋縄ではいきそうにない。

 事実上のゼロ金利をいつ解除するかも難題だ。市場では2015年後半の利上げ予想が大勢を占めている。だが、米経済の実力を示す潜在成長率の低下などで、利上げには制約が出てくるとの慎重な見方も多い。米国の利上げ観測が再燃すれば昨年のように新興国から米国へ資金が逆流し、国際金融市場が混乱する恐れもある。長期金利の方向性の見直しも道半ばであり、QE収束に向けた前例のない課題が山積みだ。

 しかし、市場が最も怖れているのはFRBのイエレン議長と大物フィッシャー副議長との政策運営での不一致だ。インフレ目標政策や失業率目標率を発表する“フォワード・ガイダンス”に関して二人の間には意見の相違が見られる。積極的にマーケットと対話しようとするイエレンに対し、フィッシャーは「そうした政策は市場の混乱を招くだけだ」と否定的なコメントを繰り返し行っている。

 FRBの中においてもイエレンとのコンビは金融政策の面で対立するようなことはないだろう。しかし、その運営を巡っては緊張が生じる場面があるかも知れない。フィッシャーの経歴をたどれば、経済学者としても実務家としても彼の右に出る人物はいない。あまりにも大物過ぎる副議長の存在は、ひとつ間違えばFRBにとって、さらには世界経済にとっても大きな爆弾になる可能性を秘めている。(編集担当:久保田雄城)