“念のため受診”や“はしご受診”を防止するために、紹介状がない患者が大病院を受診する際の初診料・再診料を設定するための議論が厚生労働省で始まった。軽症患者が不必要に大病院を受診することで、無駄な医療費がかさみ国民の税負担がますます増えたり、医師の負担が増加することで日本の医療システムそのものが崩壊の危機にさらされることを回避することが目的だ。
日本では医療のフリーアクセスが重視されており、患者は自分の意志で受診する病院を選ぶことができる。しかし本来ならば、体調不良を感じたなら、まずは自分の日頃の体調を知ってくれている“かかりつけ医“を受診し、その上で、かかりつけ医が必要と判断したならば、紹介状を書いてもらい、大病院を受診するのが効率的だ。紹介状をもらうことで同じ検査をする手間を省いたり、必要がないのに大病院を受診して、何時間も待合室で待ちぼうけということもなくなるだろう。
現在でも200床以上の大病院を紹介状なしに受診する場合、病院が独自に追加の初診料や再診料を設定し、患者に請求することは可能だ。しかしこの仕組みを活用して患者から初診料の追加負担を徴収している病院は1204施設に留まり、200床以上の病院数からみれば半数弱に過ぎない。
患者からすれば、近隣のクリニックを受診するのも少し足をのばして大病院を受診するのも、費用面からみて大差ないため、安易な“念のため受診”や“はしご受診”が増加する。
東京都が2012年に行った調査によれば、紹介状がなく同じ症状で複数の医療機関にかかったことのある、いわゆる“はしご受診”の経験者は27%、経験したことがないがしようと思った人(4%)も含めると、3割が自身の判断ではしご受診している。
その理由は、「症状が改善しない、または治らなかった」が最多で56%だが、「念のため、他の医療機関も受診した」30.7%、「診断や治療に納得いかなかった」29.7%と、念のため受診も多いことがわかる。
例えば風邪や肩こり、腰痛といった軽微な症状で安易に大病院を受診する人が増えることは、大きな弊害につながる。今年5月には九州大学の飯原弘二氏らの研究チームが脳卒中専門医の4割が長時間労働などによって“燃え尽き症候群“となっており、深刻な医療事故につながる危険があることを警告しているが、勤務医の過労問題は日本の大病院のどの診療科でも同様だ。
大病院に軽症患者が集中すれば、本当に重症な患者が必要な治療を受けられない可能性が出てくる。そもそも医師の疲弊が度を超えれば、日本の医療そのものが危うくすらなりうる。
軽症者の大病院受診、不要な救急車のコール、安易な休日夜間の受診――これらはすべて、我が国の医療制度を崩壊の危機に誘い込む。救急車は別として、夜間の受診は国の定めによって上乗せ料金が発生していることを、患者は知っているのだろうか。今回の議論で初診料が設定されることになったなら、まずはそのことを十分に患者に周知することが重要だろう。(編集担当:横井楓)