8月3日は「はちみつの日」。蜂蜜といえば、ご存知の通り、良質なビタミン類やミネラルをはじめ、アミノ酸や酵素といった栄養素を豊富に含んだ、自然食品の代表格。その歴史は古く、西洋では紀元前5000年ごろにはすでに養蜂が行われていた記録があり、更にさかのぼること1000年、紀元前6000年ごろには野生の蜂蜜を採取する古代人の姿が、スペイン東部のラ・アラーニャ洞窟の壁に描かれているという。イギリスの古いことわざにも「The history of honey is the history of mankind. (はちみつの歴史は人類の歴史)」というものがあるが、人類が古くから愛用してきた健康甘味食品が蜂蜜なのだ。日本でも600年代には養蜂が行われていたという記録が「日本書紀」に記されている。
ところが、世界中で長年親しまれていながら、はちみつほど謎の多い食品もないだろう。食用として有能なのは疑うべくもないが、不思議なのは、古来より薬用として用いられていることだ。しかも、内用薬だけに留まらず、外用薬として、傷の治療や軟膏剤、湿布薬として使われている。古くは古代エジプトの医学書エーベルス・パピルスに記載があったり、かの古代ギリシャの医学者ヒポクラテスも、はちみつが備えている強力な殺菌効果および消炎、保湿、創傷治癒効果を称賛し、はちみつを用いた多くの治療法を考案しているという。しかし、治癒に至るまでのメカニズムは未だ明らかになっていないのが現状だ。さらには、はちみつとひと口に言っても様々な種類がある。現在、養蜂に使われているミツバチは、養蜂に適したセイヨウミツバチ、日本古来の在来種・ニホンミツバチとは少し違う。また、蜜源となる植物によってもできるはちみつの味や色はに大きく異なる。これらの植物の違いによりもたらすとされるはちみつの効果の違いについては不明な点が多く残されているのだ。
そんな謎の多い「はちみつの創傷治癒効果」について、イタリア・東ピエモンテ大学のエリア・ランツァート博士らが、ミツバチ産品の製造販売で知られる山田養蜂場のみつばち研究助成募金助成を受け、同社の完熟蜂蜜を用いた研究で、大変興味深い成果を報告している。
皮膚が傷ついたとき、「角化細胞」や「線維芽細胞」が遊走(組織内の移動)して傷口(創傷部)に集まってくる。角化細胞は、傷口を塞ぐ方向に遊走して創傷部を閉鎖、一方、線維芽細胞の方は、傷口で増殖し、コラーゲンを合成して他の細胞が活動するための足場を作ったり、組織を収縮させて傷口を小さくしたりする。
ランツァート博士は、これまでにも同募金の助成を受けた研究によって、はちみつが傷口周辺の皮膚表面に存在する「角化細胞」の遊走を促進することを明らかにしているが、今回の研究では、アカシア蜂蜜、ソバ蜂蜜、マヌカ蜂蜜が無添加の状態よりも著しく高い創傷閉鎖率を示すことを確認した。そのメカニズムとして皮膚内側に存在する「線維芽細胞」の遊走を引き起こし、創傷治癒を促すこと明らかになった。これらの研究によって、はちみつが皮膚の裏皮と真皮の両方の細胞に作用して、優れた創傷効果を発揮する事が示された。この成果は、これまで伝承的に民間療法として用いられてきたはちみつの創傷治癒効果に対する、科学的な裏づけの一端となるものだ。
近年、ミツバチの減少が世界的な問題となっている。農薬の使用や公害、自然環境の減少などが原因だといわれているが、はっきりとした原因は分かっていない。しかし、人間の生活が彼らに何らかの影響を及ぼしているのは間違いないだろう。「はちみつの歴史は人類の歴史」ならば、ミツバチが少なくなってしまうことは、人類の存続も脅かすことになるのではないだろうか。人間に大きな恩恵をもたらしてくれるミツバチが住みやすい環境にしていくことを、はちみつの日に改めて考えたいものだ。(編集担当:藤原伊織)