国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、わが国の世帯総数は2010年の5,184万世帯から増加傾向にあるが、2019年の5,307万世帯でピークを迎えたあと、2035年には4,956万世帯まで減少に転じるとみている。
実際、国内の新設住宅着工戸数は減少傾向にあり、戸建、マンションともに頭打ちの感が否めない。今後、少子化問題などが劇的に改善されるようなことでもない限り、既存戦略のままでハウスメーカーが成長を描ける可能性は少ないだろう。
住宅業界ではこれまで以上に、戸建請負事業の差別化や、周辺事業領域の展開、ノウハウや技術を応用した新規事業展開など、積極的な展開が余儀なくされるとみられるが、中でも注目すべきは海外事業の展開だ。
業界の常識ではこれまで、戸建事業の海外展開は難しいといわれてきた。理由はいくつかあるが、国によって法制度が異なることや、日本製品は品質が良くても高コストであること、さらには工法的な観点や住宅事情も国によって違うので、受け入れられる見込みが少ないということが挙げられる。しかし、戸建の請負ではなく、現地企業をビジネスパートナーとして技術や部材を提供することで、新興国など今後有望な諸外国で新しい道を開拓するのは充分可能な戦略であり、積極的に海外展開を目論むハウスメーカーも現れている。
例えば、パナホーム株式会社は、8月9日、台湾の家電大手メーカー「聲寶(サンポ)グループ」と、台湾・新北市における分譲マンションおよび健常高齢者向け賃貸マンションの事業提携について発表している。具体的には、聲寶グループが2016年1月着工予定で計画している、分譲マンション2棟と健常高齢者向け賃貸マンション1棟の全3棟について、パナホームの現地子会社であるパナホーム台湾株式会社が建物の設計を担当するほか、施工請負も目指すという。今回の事業提携では、パナソニックグループが持つスマートハウス技術や、高齢者に配慮した住居の設計・施工に関するノウハウが提供される一方、パナホームとしても聲寶グループを通じて現地進出の足がかりとなる。
パナホームでは、中期経営計画においても、アジアの成長を見据えた海外進出を事業の柱の一つに挙げており、海外諸国でのマンション躯体と内装の一貫受注を目指している。現地企業をビジネスパートナーとしてコネクションをつくることは、現地の慣習に慣れて今後の展開を有利にする意味でも有効な戦略といえるだろう。
アジア諸国では今、急速な経済発展が観られるものの、都市部以外では、まだまだ住環境の整備が遅れているのが現状だ。とくに、これからは富裕層だけでなく、日本と同じく20代、30代をターゲットとした低・中価格帯の住宅や高齢者向けの住宅の需要が高まるとみられている。日本製品に対する信頼は厚く、もちろんそれに見合った技術力もあるから、参入機会は充分にある。これまでの業界の常識を覆す成果を期待できるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)