もう“ポニー・カー”とは呼ばせない。「フォード・マスタング」が、米ドメスティックモデルから国際車への飛躍を掲げて登場

2014年10月25日 13:06

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来年、日本に正式導入が決まった7代目新型フォード・マスタング。写真は米国仕様の左ハンドルだが、日本導入車は50周年記念車以外、マスタングとして初の右ハンドルとなる。

 フォード・ジャパン・リミテッドは2014年10月15日、新型「マスタング」を2015年春に日本国内販売すると発表した。最初に販売するのは、フォード・マスタング生誕50年を記念した特別仕様車である「50 YEARS EDITION」。内外装に50周年記念エンブレムなどが装備され、本革シートには専用のエンボス加工が施される。エコブーストと呼ばれる新開発2.3リッター直列4気筒ターボエンジンに6速オートマティック(6AT)を組み合わせたモデル。価格は465.0万円で左ハンドルのみ。予約受注を2014年11月1日から2015年2月1日まで受け付ける。

 ■画期的だった初代マスタング、企画はあのアイアコッカが 

 初代フォード・マスタングは、東京オリンピックが開催される半年ほど前の1964年4月17日、米ニューヨーク・フラッシング・メドウズパークで開催されたニューヨーク万国博覧会の開幕初日にワールドプレミアされたモデルだ。そのプロダクションモデルは、ロングノーズ&ショートデッキの典型的なスポーティな外観とそれに見合う性能、巧みな広告戦略によって、ターゲットだったベビーブーマーを含めた多彩な顧客にアジャストし、当時の米経済の好景気の後押しを受け、同社T型フォード以来といわれる大ヒット作となった。企画したのは、後にクライスラー社長となるアイアコッカ副社長だった。

 初代マスタングは、発売当初からクーペとコンバーチブルが用意され、最も廉価なモデルは2368USドル。現在の為替レートなら日本円で240万円ほど、極めてリーズナブルな価格もヒットの要因だった。本体価格を抑えてフルチョイスシステムと呼ぶ顧客が自由に選択できる幅広いオプションを用意し、大排気量V8エンジン、オートマチックトランスミッション、パワーステアリングなどが選べるようになっていた。その“フルチョイスシステム”の成功は、日本で1970年に発売されるトヨタ・セリカにも大きな影響を与え、セリカ発売時に、そのままフルチョイスシステムが採用された。確かに、初代セリカ・リフトバックのボディサイドラインはマスタングのコピーそのものだった。

 なお、「マスタング」というモデル名は、第二次世界大戦後期に対日戦線でも活躍した米戦闘機、ノースアメリカン社製「P-51 マスタング」から流用したといわれている。

 初代フォード・マスタングは、2ドアクーペ&コンバーチブルボディに2+2の座席レイアウトとし、米国で「ポニー・カー」と呼ばれるカテゴリーに分類された。当地におけるその後の歴代ライバルは、ダッジ・チャレンジャーやシボレー・カマロ、ポンティアック・ファイヤーバードなどだった。ポニーとは、女性のヘアスタイル「ポニー・テール」でも有名な小さな馬のことで、肩の高さが147cm以下の馬を指し、本格的な乗馬をスタートさせる前の子供に与えて乗馬の練習を行なうための馬だ。

 つまり、1960年代の米国の裕福な家庭のティーン・エイジャーが最初に手に入れるクルマを馬になぞらえ、ドライビング入門用に相応しいスポーティカーを「ポニー・カー」と呼んだ。コンパクトでスポーティなボディでベース価格は2500ドルほど、豊富なオプションやカスタマイズパーツで自分好みのクルマに仕立て上げることができる一連のクルマだ。ちなみにマスタングとは野生馬「駿馬」を意味する。

 初代マスタングは、先に述べたように標準装備を簡素にして本体価格を抑えるという戦略が受けて、ベビーブーマーだけではなく、幅広い年齢&所得層にも受け入れられた。当時のフォード車として普通のメカニズムを流用したクルマだったため、カスタマイズなどの改造がしやすかったことも受けた。

 ■マスタングとして初めてグローバル販売に挑戦する新型

 前置きが長くなった。2015年の春に導入されるマスタング限定車は、左ハンドルのみ。ボディーカラーは全7色という設定。350台の限定販売で、車両価格は465万円だ。

 新型のニュースは、最高出力314psと最大トルク44.3kg.mを発生する2.3リッター4気筒エコブーストエンジンが搭載されたこと。2500rpmから4500rpmで発生する極太の44.3kg.mのトルクは、アメリカ本国仕様に設定される3.7リッターV6エンジンを上回る。しかも、はるかに低い回転域で生み出される。また、このエコブーストエンジンが米フォード製FR車に搭載されるのは今回が初となる。トランスミッションは6速AT、これにパドルシフトを装備した米フォード車も初だ。

 サスペンションは完全に新設計となり、マスタングが遂にリアサス固定軸(リジッドサス)を捨て、初めて4輪独立式に進化した。遅きに失した感もあるが、リアサスは独立式のインテグラルリンク式だ。加えてステアリングのアシストは電動化され、操舵力やスロットル開度、シフトタイミング、ESC(横滑り防止装置)を4段階で統合制御するドライブモードも備わっている。日本仕様では、ハンドリング性能やブレーキ性能が強化された「パフォーマンス・パッケージ」が標準装備となる予定だ。

 続いて2015年の後半には、米国製フォード車、ましてやマスタングにとって初めてとなる右ハンドル仕様が導入される予定。その際に、限定車のような左ハンドル仕様は日本には導入されなくなる。また、同じく2015年の後半に5リッターV8エンジン搭載車とコンバーチブルが導入される計画だ。

 生誕50周年を迎えたフォード・マスタング。本国でも販売減とはいえ、年間8万台近くを売る。ただ、マーケットはこれまでアメリカ本国に限られていた。というのも、日本など熱烈なファンが存在する一部地域だけにしかマスタングは輸出されていなかった。加えて、その数は極めて少なかった。

 ところが、7代目となる新型は、何とグローバルカーとして世界市場に打って出る。米国内では今年10月1日に正式に発表され、いよいよデリバリーが始まった。そして、この新型マスタングが販売される国は、世界で120カ国以上にのぼるという。そのなかには25の国と地域に右ハンドルマーケットが存在し、今回は開発段階から右ハンドル仕様の設定がある。フォード・マスタングの初めてのライト・ハンダー仕様の登場である。

 ポニー・カーのアイコンとも言えるマスタングだが、7代目「フォード・マスタング」はグローバルなスポーツカー、もう“ポニー・カー”とは呼ばせない……か?(編集担当:吉田恒)