理化学研究所は、先天性無汗症の原因遺伝子が、2型イノシトール三リン酸(IP3)受容体を発現する遺伝子であることを発見した。研究成果は、汗腺の形成不全などのほかは長らく原因が不明であった無汗症の原因を初めて明らかにしたもので、無汗症や多汗症の治療法確立につながることが期待される。
理研脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームの御子柴克彦チームリーダー、久恒智博研究員と、スウェーデンのウプサラ大学との共同研究グループの成果によるもの。
無汗症とは、体温が上昇しても皮膚から汗が出ず、体温調節ができなくなる病気のことである。発汗による体温調節ができなければ、熱中症やめまいを起こすリスクが高まり、重症化すれば意識障害やけいれんを起こすこともある。
このような無汗症の原因として、これまでに汗腺の形成不全や交感神経の異常などが報告されているが、その他の原因は明らかになっていなかった。
研究グループは、パキスタンで特異な先天性無汗症を発症する家系を発見した。この先天性無汗症患者は、これまで先天性無汗症の原因として報告されていた汗腺の形成不全や交感神経の異常が見られず、発汗の異常以外は健常者と変わらないことが分かった。
また、家族全員には症状が出ていないことから、この先天性無汗症の原因遺伝子は常染色体(細胞内にある染色体全セットのうち、性染色体を除いたもの)劣性遺伝子であると推測された。そこで近親婚家系のDNAサンプルを用いてさらに詳しく解析を行ったところ。この疾患の原因遺伝子が2型IP3受容体を発現する遺伝子であることがわかった。
イノシトール三リン酸(IP3)受容体とは、細胞内のカルシウム貯蔵庫の1つである?胞体の膜上に局在するカルシウムチャネルのこと。細胞外の刺激(神経伝達物質やホルモンなど)に応じて産?されるイノシトール三リン酸(IP3)が結合することによってチャネルが開き、?胞体内のカルシウムを細胞質に放出することで、細胞内のカルシウム濃度を調節する働きを持つ。
今回の研究成果によって、原因不明な後天性の無汗症にもIP3受容体の機能異常が関わっている可能性が示唆された。今後、IP3受容体の活性を制御することによって、無汗症や多汗症の治療法を確立していくことが期待される。(編集担当:横井楓)