お正月といえば昔は家や田舎で過ごすのが当たり前だったが、最近では大型連休を利用して海外脱出する家庭も少なくない。門松や注連飾りはほとんど見かけなくなったし、初詣に行っても着物姿の人を見かけることは稀だ。年始の挨拶も、メールとSNSで済ませるのが今時だ。
正月の食事情もこの十年余りで大きく変化した。正月でもスーパーやショッピングモール、コンビニは普通に営業しているし、正月だからといって休んでいる店を見つける方が困難なくらいだ。おせち自体も、もはや家庭の味ではなく、店や通販で購入するのが当たり前になっている。富士経済の調査によると、2014年度の重詰おせちの市場規模は前年比5.3パーセント増となる576億円で、市場はさらに拡大傾向にあるという。
昔はお正月には家族や一族が集まり、おせちを囲んで食べながら、親から子へ、思いを伝えたものだが、そういう食を通した家族の繋がりが薄くなってしまうのは、少し寂しいものがある。日本のお正月からどんどんと温もりが失われていくような気がしてならないのだ。
そんな中、住宅大手の積水ハウスが面白い取り組みを行っている。同社では「幸せ食空間づくり おいしい365日」という、日々の暮らしの重要な要素として食生活に着目し、食空間から住宅のあり方を考える提案を行っている。住まいの設計は家族の毎日を主体に考える、おいしさのアップや家族を楽しく家事に巻き込む秘訣は空間にある、ということを体系化しているのだ。
家庭での食事を豊かにするのは、素材や味、栄養バランスだけではないという考えのもと、同社では「『おいしい365日』幸せのDKづくり 3つのレシピ」をまとめ、食空間づくりに積極的に取り組んでいる。3つのレシピは「いごこちダイニング」「はかどりキッチン」「おやくだちキッチンクローク」から成っている。まず「いごこちダイニング」は、気取ったダイニングではなく、家族みんなが家での食事を落ち着いて楽しめる居心地の良い空間の提案。「はかどりキッチン」は料理研究家などへのヒアリングや調理動線の実験、人間工学的研究アプローチによる分析検証など行い、徹底的に使いやすさにこだわったキッチンの提案。そして「おやくだちキッチンクローク」は、作業性と見た目のスッキリ感や清潔感が心地よく、ストレスの少ない空間提案となっている。
すでに、東京と大阪で「おいしい365日」展などの公開参加型イベントを催したり、「おいしい365日」セミナーを開催するなどし、またその参加者たちからフィードバックされた情報や意見を実際に住宅設計に活かしているという。
おせち料理の話に戻ると、現代的お正月の食卓のキーワードは、外食、中食、コンビニ化ということでもある。それは共働きや核家族化などで忙しい現代家族のありようからの変化である。積水ハウスが提案する新しい食空間も、こうした現代的な変化をきちんと受け止めつつ、懐古主義ではない、日本の食生活の良さを残しつつ、便利で快適で豊かな暮らしのありかたを問うているところに注目したい。
おせちは作るだけでなく、盛り付ける、一品加える、他の料理との調和を考える。こうした営みに家族で参加し、楽しくなるようなキッチンと、家族で過ごすのが心地よいダイニングがあれば、日本の温もりのあるお正月のように「おうちゴハン」が楽しくなり笑顔があふれる暮らしが実現できるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)